「グローバルダイニングへの時短命令は違法」判決は何を意味するのか

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カフェ ラ・ボエム 自由が丘

イタリアンレストラン「カフェ ラ・ボエム」などを運営するグローバルダイニング<7625>が、新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づいて東京都が営業時間短縮命令を出したのは違法だとして、東京都に損害賠償を求めた訴訟の判決が2022年5月16日に東京地裁でありました。松田典浩裁判長は「命令は違法」としたものの、「東京都に過失があるとまでは言えない」として原告側の請求を棄却しました。

新型コロナウイルス感染拡大、緊急事態宣言の発令、飲食店への営業時間短縮要請及び命令という、前代未聞の出来事が起こった中で争われた注目の裁判でした。しかし、「命令は違法」であるものの「東京都に過失があるとは言えない」という判決は今一つ歯切れの悪い印象を受けます。

今回、争われることになった背景や内容を解説します。この記事では以下の情報が得られます。

・グローバルダイニングの主張とコロナ禍の対応
・東京都がグローバルダイニングに対して行った”時短命令”とは

影響力の大きさに危機感を抱いた東京都

まず、裁判で争われることになった背景から説明します。発端は、1月8日から2月7日24時までの東京都内全域を対象とした緊急事態宣言の発令。これにより、飲食店は20時以降の営業を自粛、酒類の提供は11時から19時までとする協力依頼を受けました。

この協力依頼に対し、グローバルダイニングは緊急事態宣言発令が発表された1月7日に「緊急事態宣言の発令に関して、グローバルダイニング代表・長谷川の考え方」を公表します。「2021年1月7日現在の状況におきまして、当社は宣言が発令されても営業は平常通り行う予定でございます。」という文章から始まり、コロナ禍が国民の健康と生命に甚大な脅威を与えているのかという疑問を投げかけ、今の行政からの協力金やサポートでは時短要請に応えられず雇用の維持ができないことなどを訴えています。

夜間も営業することにより、主力レストラン「ラ・ボエム」の2021年1月の売上高はコロナ前の2020年1月の売上高を9.5%上回りました。

■グローバルダイニング2021年12月期月次売上高

※月次報告書より筆者作成

時短要請中の夜の食事需要は減退しておらず、顧客から必要とされていることが示されました。

事態が急変したのは、2021年3月8日の緊急事態宣言。1月と同様、飲食店には営業時間の短縮とアルコール類の提供の制限が要請されました。グローバルダイニングは通常営業スタイルを貫いていましたが、3月18日に東京都が時短要請に応じない一部飲食店事業者に対し、新型インフルエンザ等対策特別措置法45条3項に基づく、「施設使用制限」命令を発出したのです。東京都は従わない事業者に対して、過料を課すという国内初の命令でした。

命令の対象となった店舗は27。そのうち26店舗がグローバルダイニングのものでした。グローバルダイニングはこの命令に従います。

東京都はグローバルダイニングが時短要請には応じないと表明したことに対し、緊急事態措置に応じない旨を強く発信するなど、他の飲食店の20時以降の営業継続を誘発する恐れがあるなどとして、危機感を抱いていました。東京都からの一律時短要請に従わなかった2,000超の施設のうち、グローバルダイニングを含む113の施設に個別の時短要請がかけられたといいます。

グローバルダイニングの代表取締役社長・長谷川耕造氏は、多様な従業員の雇用を守り、営業の自由、民主主義国家のあり方を問うため、1店舗1日1円とする国家賠償を求める訴訟を提起しました。

時短要請は最も効果的な感染防止対策の一つ

ここでのポイントは東京都が命令を出す根拠となった「新型インフルエンザ等対策特別措置法45条3項」。以下が抜粋です。

「施設管理者等が正当な理由がないのに前項の規定による要請に応じないときは、特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため特に必要があると認めるときに限り、当該施設管理者等に対し、当該要請に係る措置を講ずべきことを命ずることができる。」

そして、続く4項には以下のようにあります。

「特定都道府県知事は、第一項若しくは第二項の規定による要請又は前項の規定による命令を行う必要があるか否かを判断するに当たっては、あらかじめ、感染症に関する専門的な知識を有する者その他の学識経験者の意見を聴かなければならない。」

この2つが裁判で大きな意味を持ちます。

裁判では、東京都が時短命令を出せるのは「特に必要があると認められたとき(3項)」に限定されており、不利益処分を課してもやむを得ないと言える程度の個別の事情が必要と指摘しています。グローバルダイニングは、時短要請中の店舗運用において、消毒や換気などの感染対策を行っていました。東京都は命令を出す前に店舗が行う対策の確認をしていません。店舗を運営することによって感染リスクが高まるという根拠がない状態で命令を出したことになります。

また、命令が出されたとき、緊急事態宣言は3日後に解除されることが決まっていました。4日しか効力がないにも関わらず、命令を出す必要性についての合理的な説明がありませんでした。

こうした事情を考慮し、裁判では東京都が2021年3月18日に時短命令を出したことは違法であると結論づけました。

ただし、東京都が命令を出すにあたり、新型コロナ対策審議会の有識者が命令が必要だとの認識を示していた(4項に示されている「感染症に関する専門的な知識を有する者その他の学識経験者の意見を聴かなければならない」を満たしていた)ほか、命令を出すことに前例がなかったことを考慮して、東京都に過失があるとまでは言えないとして賠償責任は退けました。

グローバルダイニングは、時短要請や命令が営業の自由を侵害する憲法違反であると主張していました。しかし、判決では時短要請は最も重要な感染防止対策の一つであるとして、合憲であると判断しています。また、グローバルダイニングへの命令が見せしめであることも訴えていましたが、報復や見せしめとは言えないと結論づけています。

グローバルダイニングは判決を不服として控訴しました。

今回の裁判では、飲食業界関係者の間で最も注目度の高い「営業の自由の侵害」について合憲であると判断されました。次の裁判でどのような判決が下されるのか、注目が集まります。

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