第2次トランプ政権と日米関係の行方│M&A地政学

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ドナルド・トランプ次期大統領(REUTERS)

海外M&Aで地政学は欠かせない。今、世界で何が起き、そこにはどんなリスクがあるのか。「M&A地政学」では、国際政治学者で地政学の観点から企業のリスクコンサルティングを行うStrategic Intelligence代表の和田大樹氏が世界の潮流を解説する。今回は「第2次トランプ政権と日米関係の行方」を取り上げる。

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11月5日に行われた米国大統領選の結果、共和党候補のトランプ氏が勝利した。これまでの世論調査ではトランプ氏とハリス氏の支持率が拮抗し、まれに見る大接戦が予想されていたが、開票作業が始まるとトランプ氏の優勢がすぐに明らかになった。トランプ氏は選挙戦の行方を左右するペンシルベニアやジョージア、ノースカロライナなど激戦7州を全勝し、過半数の270人を大きく上回る312人の選挙人を獲得し、226人となったハリス氏を大差で破った。トランプ氏は来年1月の政権発足に向けて人事などで動き出しているが、今後の日米関係はどうなっていくのだろうか。

トランプ氏との親密な関係を築いた安倍晋三元首相

日本でも改めて石破茂氏が第103代首相に選出されたが、今後の日米関係の行方は、石破氏が如何にトランプ氏と良好な関係を構築できるかがポイントになる。2016年の米国大統領選挙では民主党候補のヒラリー・クリントン氏とトランプ氏との一騎打ちとなったが、クリントン氏が優勢との声が多かったものの、結果としてトランプ氏が勝利した。

これによって、日本でも大胆な発言を繰り返すトランプ氏とどう上手く付き合っていけばいいのかと日米同盟の行方を懸念する声が広がったが、それを見事に払拭したのが安倍晋三元首相だった。

トランプ氏の勝利宣言後、安倍氏はニューヨークにあるトランプタワーを外国の首脳としていち早く訪問し、黄金のゴルフクラブを手土産に親密な関係構築に努めた。そして、それが功を奏し、安倍氏は日米首脳会談に合わせて毎回のようにゴルフ外交を展開し、トランプ氏から個人的な信頼を獲得することに成功した。安倍・トランプ時代の日米関係は当初の懸念が嘘かのように良好なものとなった。

重視するのは国家よりも個人との関係

トランプ氏はバイデン大統領のように自由や民主主義、人権などといった価値観や理念に重きを置かず、アメリカファーストのもと自国の利益を最大限引き出そうとする実利的、商取引的なディール外交を基本とし、国家と国家ではなく、個人と個人の関係を重視する。

よって、石破氏が自由や民主主義などリベラルな価値観を全面に出し過ぎれば、トランプ氏との間で不一致が顕著になってくる可能性がある。安倍氏は共通の趣味であるゴルフ外交を積極的に展開したが、石破氏はゴルフ通ではないとされ、石破氏とトランプ氏の相性はそれほど良くないのではとの声が専門家からは聞かれる。

筆者も、石破・トランプ関係が安倍・トランプ関係ほど友情に満ちたものになる可能性は低いと考えるが、トランプ氏は政権1期目で非常に良好な日米関係を経験しており、米国にとって対中国という側面で日本が重要なパートナーである現実はトランプ政権でも変わらないことから、大統領に返り咲いたトランプ氏は基本的には日本との関係を重視してくるだろう。

無論、トランプ氏が思いやり予算の増額や最新鋭の戦闘機などの購入などで日本に負担を求めてくる可能性があるが、石破氏が日米関係は米国に利益をもたらすなどテクニカルなディール外交に努めれば、安倍・トランプ関係ほど緊密なものではなくても、石破・トランプ時代でも良好な日米関係が継続すると考えられる。

日米関係を左右する注目点とは?

しかし、課題がないわけではない。今後の日米関係において問題となるのは、石破氏がトランプ氏と良好な関係を築けるかではなく、石破政権が少数与党という状況で長期にわたって安定した政権運営が可能かである。

安倍・トランプ関係が良好だったのは安倍氏の尽力によるものだが、自民党政権の政治的基盤が安定していたという要因も見逃せない。10月の衆議院選挙で自民党は大きく議席を失い、自公で過半数を下回り、石破政権は野党の主張や政策にも配慮せざるを得ない状況にある。

トランプ政権と良好な関係を維持するには、政治基盤が安定した政党の強いリーダーが求められる。しかし、今後の石破政権がどうなるか分からないが、少数与党の石破政権が内政や政局の混乱に陥り、思うような外交を展開できなくなるリスクが考えられる。日本が政治的に混乱し、政権交代が続くようなことになれば、トランプ氏が日本への信頼感を低下させ、日米関係が悪い方向へ流れる可能性もあろう。

文:株式会社Strategic Intelligence 代表取締役社長CEO 和田大樹

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