【M&A仕訳】合併の会計処理

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こんにちは、公認会計士の岡 咲(おか・さき)です。(ペンネームです。会員検索してもこの名前では出てきませんので、悪しからず。)

今回は個別会計における合併の仕訳について説明させていただきます。

合併のスキームについて(取引概要)

前回までの各種取引は、法人格そのものには影響のない、株主を入れ替える、または資産・負債を入れ替えるだけの取引でした。これに対して合併は、複数の企業が法人格を一つに融合させる取引となります。

合併には「吸収合併」と「新設合併」という2つの方法があります。前者は、当事者のうちの1社が法人格が存続して存続会社となり、他の当事者は存続会社に吸収されて法人格が消滅する方式の合併です。後者は、新しい会社を設立して、その会社がすべての合併当事者を吸収し、全当事者の法人格が消滅する方式の合併です。一般的には前者のケースがほとんどで、後者のケースはレアケースです。 

合併が行われると、吸収合併の場合は消滅会社の株主に存続会社の株式が割り当てられ、新設合併の場合は消滅会社の株主に新設会社の株式が割り当てられます。よって、会計上は株式を対価として行われる企業結合取引に含まれることとなります。

合併の仕訳ルールとポイント

合併の場合も、どの当事者が取得企業となり被取得企業となるかを判定し、判定結果に応じて仕訳を計上していくことになります。特に合併の場合、許認可権の維持などを目的として、被取得会社が存続会社となり、取得会社が消滅会社となる「逆取得」のケースがレアケースながらも他の取引類型に比べると比較的生じやすいため、留意が必要です。

まずは取得企業と被取得企業の判定から

合併は対価として株式を支払った場合に該当しますので、前回の株式移転の場合と同様に、以下の観点から総合的にどちらが取得企業となるかを検討することと定められています。

No. 判定となる観点
結合後の議決権比率の構成比でより大きい比率を占めるのはどちらの当事者側か
結合後の筆頭株主はどちらの当事者側か
結合後の取締役会の過半数の人事権を握っているのはどちらの当事者側か
結合後の取締役の構成比はどちらの当事者出身の者が多いか
対価の支払いに対してどちらの当事者がプレミアムを支払う側だったか
売上高、純利益、総資産はどちらの当事者がより大きいか

前回の株式移転のケースでは、逆取得はかなりのレアケースでしたので、説明を省略しましたが、合併の場合は数は少ないながらも他の取引形態に比べれば相対的に逆取得が行われやすいため、逆取得の場合の仕訳についても後ほど解説いたします。

(設例1)上場企業同士の合併
「上場会社A社は他の上場会社B社を吸収合併し、B社の株主にA社株式を交付した。」

 ①合併後のA社の議決権比率は、既存A社株主72%、旧B社株主28%である。
 ②合併後のA社の筆頭株主は、投資信託のカストディアンの信託銀行であり、合併の前後で変化はなかった。
 ③合併後のA社の取締役はA社出身者8名、旧B社出身者3名とすることで合意された。
 ④合併後のA社の取締役人事案はA社の指名委員会に一任されることで合意された。
 ⑤合併比率を設定する際、プレミアムを支払ったのはA社側であった。
 ⑥売上高、純利益、資産規模のいずれもA社のほうが大きかった。

(設例1の判定)
このケースでは、①~⑥の全ての点でA社が取得企業と考えられます。よって、「A社が取得企業」と判定されます。

(設例2)消滅会社が取得企業となる場合
「非上場会社C社は同業他社のD社を吸収合併し、D社の株主にC社株式を交付した。」
「C社とD社は特殊な許認可を要する事業を運営しているが、C社は旧制度で取得した許認可を有しており、より有利な内容である。D社は現行制度で取得した許認可を有しており、より不利な内容である。このため、C社の持つより有利な許認可を生かすため、存続会社はC社とすることで合意されたものである。」

 ①合併後のC社の議決権比率は、既存C社株主25%、旧D社株主75%である。
 ②合併後のC社の筆頭株主は、旧D社の筆頭株主であった財団法人である。
 ③合併後のC社の取締役はC社出身者2名、旧D社出身者4名とすることで合意された。
 ④合併後のC社の取締役人事案は現状の構成比を維持することで合意された。
 ⑤合併比率を設定する際、プレミアムを支払ったのはD社側であった。
 ⑥売上高も純利益も資産規模もD社のほうが大きい。

(設例2の判定)
このケースでは、①~⑥のすべてで消滅会社のD社が取得企業であるという状況です。よって、「消滅会社が取得企業、存続会社が被取得企業」という逆取得に該当します。

合併における各当事者

取得企業の判定ができましたら、それぞれの当事者ごとに会計処理が行われます。

吸収合併の場合、登場人物は以下の4通りです。

1.取得企業
2.被取得企業
3.取得企業の株主
4.被取得企業の株主

新設合併の場合、さらに5の「新設会社」が登場しますが、新設合併は極めてレアケースですので、本連載では扱わないものとします。

通常取得の合併における会計処理

通常の取得の場合、それぞれの当事者の会計処理は、以下の通りとなります。

1.取得企業の会計処理

1-1.取得対価の算定

被取得企業の取得対価を交付した株式の時価で評価します。新株を発行した場合は上場会社の場合は市場株価に基づき、非上場会社の場合は公認会計士等の専門家に依頼して算定した公正価値で評価します。自己株式を発行した場合は自己株式の適正な簿価で評価します。

1-2.取得会社の資産・負債の時価評価、未認識無形資産の追加認識

被取得会社が保有するすべての資産・負債を時価に評価替えします。

日本ではあまり例がありませんが、市場価格のある社債を発行している場合や、割引債を発行している場合などは、負債も市場金利に基づいて公正価値に評価替えを行うこととなります。
この時、顧客リスト、通常の市場取引に比べて有利な契約、商標権等の被取得会社が貸借対照表に認識していない無形資産も公正価値を評価して資産計上します。

1-3.取得対価相当額の払込資本の増額、取得会社の資産・負債の時価の合算、貸借差額ののれん・負ののれん計上

まず、1.で算定した取得対価相当額を資本金・資本剰余金に計上します。自己株式の交付がある場合は、増加させる資本金・資本剰余金の額から自己株式の適正な簿価を控除します。

次に、被取得会社の資産・負債の時価をそれぞれ借方・貸方に計上します。

最後に、貸借差額をのれんまたは負ののれんに計上します。 

2.被取得企業の会計処理

被取得企業は合併により消滅しますので、合併の前日を最終日として決算を行います。この時、貸借対照表上の資産・負債は、時価評価せず、適正な簿価で処理します。

3.取得企業の株主の会計処理

取得会社の株主は取引当事者ではないため、原則として特に会計処理を行いません。ただし、合併により著しい持ち分変動が生じ、子会社株式または関連会社株式がその他有価証券となる場合については、時価の洗い替えを行い、合併損益を認識します。

4.被取得企業の株主の会計処理

被取得会社の株主は、株式交換の場合と同様に、投資の継続性を判定し、投資が継続していると認められた場合は従来の簿価を引き継ぐため仕訳なし、投資が清算されたと認められた場合は交付された取得企業の株式の時価に洗い替え、合併損益を認識します。

投資の継続・清算の判定方法は株式交換の場合と共通ですので、株式交換の記事(記事はこちら)をご参照ください。

通常取得の合併仕訳

それでは設例でそれぞれの当事者の仕訳を見ていきましょう。

(設例3)
・上場会社のE社は非上場会社のF社を吸収合併した。取得会社はE社と判定された。
・E社がF社に交付した株式数は2百万株、E社の合併時の市場株価は一株700円であった。
・E社は合併時に1百万株の自己株式を有していたので、そのすべてをF社株主への交付に使用し、残り1百万株を新たに発行した。
・E社の自己株式の適正な簿価は400百万円であった。
・交付した株式の時価総額から自己株式の簿価を控除した残額は資本金と資本剰余金に半額ずつ計上するものとする。
・E社の筆頭株主は投資ファンドで、持ち株比率は8%である。
・F社の合併時の資産負債の公正価値は、次の通りであった。


「F社はG社の完全子会社であった。合併後、G社が取得したE社株式はE社の5%相当となったため、G社においてその他有価証券として処理されることとなった。G社が計上していたF社株式の簿価総額は1,100百万円であった。」

1.取得企業E社の仕訳

F社の資産・負債を時価で受け入れます。

交付した株式の時価総額2百万円*700円/株=1,400百万円から交付した自己株式の適正な簿価400百万円を控除した1,000百万円の半額ずつを「資本金」及び「資本剰余金」に計上します。この結果、借方に差額が1,015百万円発生するので、のれんを計上します。


2.被取得企業F社の仕訳

 F社は合併の前日を最終営業日として通常の決算を行い、最終の財務諸表を作成します。この時の貸借対照表は適正な簿価で作成されます。

(仕訳省略)


3.取得企業E社の株主の仕訳

E社の筆頭株主の持ち株比率は8%にとどまるため、合併の前後の持ち分変動により「子会社株式・関連会社株式」が「その他有価証券」に変化する株主は存在しません。よって、E社の株主で合併差損益の認識を要する株主は存在しません。

 (仕訳不要)


4.被取得企業F社の株主(G社)の仕訳

 F社の株主であったG社はF社株式を子会社株式として計上していましたが、合併により交付されたE社株式は5%にとどまりますので、合併後は「その他有価証券」となります。

よって投資は清算されたと判定されますので、交付を受けたE社株式の時価総額1,400百万円に簿価を洗い替えることとなり、従来の簿価1,100百万円との差額300百万円が合併差益として計上されることとなります。 

 

逆取得の合併における会計処理

逆取得の場合、仕訳は以下のように定められています。

1.取得企業(消滅会社)
2.被取得企業(存続会社)
3.取得企業株主の処理
4.被取得企業株主の処理

1.取得企業(消滅会社)の会計処理

取得企業は法律上消滅してしまいますので、通常の取得のケースの被取得企業同様、合併の前日を最終日として通常の決算を行います。 

2.被取得企業(存続会社)の会計処理

逆取得の場合、被取得企業は存続して取得企業の資産負債を受け入れることとなりますが、通常の取得の場合と異なり、時価評価せずに簿価をそのまま受け入れます。

資産負債の差額は、消滅会社の株主資本相当額については原則として「資本金」・「資本剰余金」に計上します。債務超過の場合は、債務超過相当額をその他利益剰余金のマイナスとして計上します。

ただし、被取得会社が新株のみを発行している場合は、取得会社の従前の株主資本の内訳をそのまま引き継ぐことができます。

消滅会社の評価換算差額等相当額については、適正な簿価をそのまま引き継ぎます。そして、連結財務諸表を作成しない場合については、仮に通常の取得の取引であったならばどのような会計処理になっていたかを試算し、実際の処理との差額を注記することとされています。

3.取得企業株主の会計処理

取得企業株主の処理は、通常の取得の場合と異なるところはありません。

4.被取得企業株主の会計処理

被取得企業株主の処理も、通常の場合と異なるところはありません。 

逆取得の合併仕訳

それでは設例でそれぞれの当事者の仕訳を見ていきましょう。

(設例4)逆取得で吸収合併を行った場合

・H社はI社を吸収合併した。H社は規模でI社に及ばないが業界の最老舗企業で高いブランド価値を有しており、ブランド価値を生かすためH社を存続会社として合併することとなったが、取得企業はI社と判定された。

・合併時のI社の貸借対照表は以下のとおりである。本件において、H社はI社の株主資本の内訳をそのまま承継する方法を採用することとした。


1.取得企業I社(消滅会社)の仕訳

I社は取得会社ですが合併により消滅してしまうので、合併の前日を最終営業日として通常の決算を実施します。

(仕訳省略)

2.被取得企業H社(存続会社)の仕訳

I社の資産・負債の簿価をそのまま受け入れます。H社はI社の株主資本の内訳項目をそのまま引き継ぐ処理を採用することとしたので、結果としてI社の貸借対照表を単純合算する仕訳を計上することとなります。

3.I社の株主の仕訳

通常の取得の場合と同様ですので、本設例では省略します。

(仕訳省略)

4.H社の株主の仕訳

通常の取得の場合と同様ですので、本設例では省略します。

 (仕訳省略)

例外1:共同支配企業の形成

複数の企業が均等に支配をして、共同で事業を運営する場合があります。そのような共同事業を運営する主体を合併等により作り出すことを「共同支配企業の形成」といいます。このようなケースでは、取得・被取得という分類が妥当しないため、例外的な会計処理が定められています。

共同支配企業の形成は、以下の要件をすべて満たす場合に認定されます。

共同支配投資企業(共同支配企業の株主)は、複数の独立した企業から構成されていること。
共同支配投資企業となる企業が共同支配となる契約等を締結していること。
企業結合に際して支払われた対価のすべてが原則として議決権のある株式であること。
上記以外に支配関係を示す一定の事実が存在しないこと。

合併の場合、ある会社の子会社と別の会社の子会社を合併させて共同支配企業を形成するケースなどが存在します。

(設例5)

・アクティビストファンドのJ社は、投資先のK社(5%保有)の子会社L社と、別の投資先のM社(8%保有)の子会社N社がいずれもそれぞれの親会社にとってノンコア事業であり、運営上の非効率が目立つこと、L社とN社は同業であるため、両者を合併させることで多大なシナジーが期待できることに着目し、K社・M社の経営陣を説得してL社をN社に吸収合併させることに成功した。

・L社およびM社には共通する大株主はJ社と投資信託のカストディアンの信託銀行のみであり、両社は相互に独立しているものと認められた。

・合併後のL社の議決権はK社50%、L社50%とし、役員の派遣数も同数とし、常に両者一致の上で経営を行う旨の共同支配契約を締結した。

・L社の支配権に関して、上記以外に支配関係を示す一定の事実は存在しない。

(設例5の判定)

上記の場合、共同支配企業の形成に該当します。

共同支配企業の形成の場合の会計処理

共同支配企業の形成の場合の会計処理は、逆取得と類似した処理となります。

1.存続会社の会計処理

消滅会社の資産・負債・評価換算差額等の適正な簿価を受け継ぎます。

株主資本については原則として資本金・資本剰余金の増加として処理しますが、例外として消滅会社の株主資本の内訳をそのまま引き継ぐことができます。

2.消滅会社の会計処理

逆取得の場合と同様、合併の前日に適正な簿価による最終決算を行います。

3.存続会社・消滅会社の株主の会計処理

通常の取得の場合と同様です。基本的な計算構造は逆取得の場合と同じなので、仕訳例は省略します。

例外2:共通支配下の取引

親会社が子会社を吸収合併する、子会社同士が合併するなど、「共通支配下の取引」となる場合も、例外処理が定められています。

合併が共通支配下の取引として行われる場合、親子間か子会社同士かという階層の問題と、対価が株式のみか現金払いか(例えば70%子会社を完全子会社化するため、少数株主に対しては現金を対価として支払って資本関係から退出してもらい、すでに保有していた70%については新株を発行しないことにより、合併の対価が全額現金となるようなケースなど)などの違いによって会計処理が変わり、それぞれの類型ごとに実務指針に処理方法が定められています。

本連載では、それらはあまりにも専門的で一つ一つ説明を行うとかえって読者の理解を妨げかねないと判断し、解説は行わないものとします。


以上が合併の仕訳の解説となります。(次回「会社分割」に続きます)

文:岡 咲(公認会計士)/編集:M&A Online編集部

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