「学部を切り売りして生き残る」に現実味はあるのか。大学のM&Aは今

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 経営難に陥った地方の私立大学が、学部を切り売りして生き残る―そんな時代がやってくるのか。少子化に伴い大学に進学する人口が減少し、地方を中心に大学の経営が厳しくなることに対応し、文部科学省は私立大学の学部を他の大学に譲渡できる制度の導入に向けて検討に入った。

 2019年度中にも関連する法令を整備する予定という。だが、経営難に陥った地方の私立大学の学部を果たして買う大学があるのだろうか。在学中の学生に不利益はないのか。キャンパスやカリキュラムはどのようになるのか。解決すべき問題は少なくない。

学部の切り売りは本当に有効なのか

 学部の切り売りをする際にどのような学部がその対象となるのか想像してみる。受験生に人気があり、多くの学生を抱える学部が切り売りされるかというと、それはないと言って良いだろう。地方の私立大学においてこうした人気学部は経営上、手放すことはだきないはずだ。

 逆の学生に人気がなく、定員割れの学部はどうであろうか。これであれば、成り立つであろう。不採算学部を切り離なせば、大学経営にとって資金面では大いにプラスになるからだ。

 では、人気のない学部を買うのはどのような大学なのであろうか。それは買おうとする学部を持っていない大学で、今は人気がないが、人気学部に変身させることに自信のある大学といったところだろうか。

 すぐに思い当たる事例として早稲田大学がある。ライバルの慶応義塾大学には医学部があるのに、早稲田大学にはそれがない。「もし地方の私立大学の医学部を買うことができれば・・・」という発想だ。

 確かにこれであれば条件を満たしており、学部の譲渡は成立するだろう。しかし不人気で不採算の医学部があるのか。さらに医学部以外にこうした事例に当てはまる学部はあるのか。はなはだ疑問だ。

文部科学省の取り組みは重要だが・・・

 にもかかわらず、文部科学省が学部の譲渡を認めようとしている背景には、少子化による大学経営の困難さがある。すでに経営難に陥った私立大学の廃校が相次いでおり、地方から高等教育の機会が失われつつある。

  地方において大学は新製品のネタを提供してくれる機関であり、人材を供給してくれる機関でもある。実際大学の技術や人材を取り入れて成長してきた企業は数多くある。

 地方からこうした役割を担う大学がなくなることは、地域発展のためにもプラスとは言えない。文部科学省が何とかして地方に大学を残そうと、大学間のさまざまな連携の後押しする取り組みは、確かに重要だ。

 ただ、その目的を達成するための切り札が学部の切り売りかというと、首をひねらざるを得ない。もちろん文部科学省も学部譲渡だけを考えているわけではく、大学の統合などについても幅広く検討を進めている。

 そこで、ここはさらにもう一歩踏み込んだ議論を期待したい。例えば経営難に陥った大学を国が買い取り、その地域にあった技術開発を行う教育機関に改組するといったアイデアはどうであろうか。

 なんだかんだいっても、日本はやはりモノづくりで生きていくしかないだろう。地場産業の技術を活かし、新しい技術を開発する。そして新しい市場を作っていく。こうした明るい未来が少しでも描けるようであれば、経営難の大学を買い取るとために、税金を投入する意味はあるだろう。

文:M&A Online編集部