アクティビストファンドとベンチャーキャピタルが激しく対立しています。2022年4月マンティス・アクティビスト投資1号(東京都港区)の代表・金武偉氏がフューチャーベンチャーキャピタル<8462>に対して株主提案を提出しました。
フューチャーベンチャーキャピタルが収益の大半をファンドの管理手数料に依存しており、市場平均を超過する投資リターンを得ていないというもの。事業モデルと株価が行き詰まりを見せているといいます。金武偉氏は取締役候補の選任を求めました。それに対して、フューチャーベンチャーキャピタルは取締役会で株主提案への反対を決議しています。
受託運用総額200億円、ファンド数40本超を抱えるフューチャーベンチャーキャピタルとはどのような会社なのでしょうか。この記事では以下の情報が得られます。
・会社の概要と業績
・ビジネスモデルと株主提案の内容
フューチャーベンチャーキャピタルは1998年9月に川分陽二氏が京都市に設立した会社。同年11月に日本初となる投資事業有限責任組合「フューチャー一号投資事業有限責任組合」を組成しました。川分氏は1977年に京都大学法学部を卒業し、住友銀行(現:三井住友銀行)に入社しました。1989年に日本アセアン投資(現:日本アジア投資)に移籍し、1992年大阪支店長に就任。在任中に出資した27社のうち9社の上場をけん引しました。
1998年にフューチャーベンチャーキャピタルを立ち上げ、2001年10月にナスダック・ジャパン(現:グロース市場)に上場。川分氏在任中に300社に出資をし、21社が上場しています。
2011年6月にカネカ<4118>出身の今庄啓二氏が代表取締役社長に就任しました。フューチャーベンチャーキャピタルは2008年から2011年にかけて第三者割当増資を繰り返しており、その主な引受先となったのがカネカでした。カネカは2011年に総株式の18%を保有する筆頭株主となっています。フューチャーベンチャーキャピタルは、世界金融危機の影響による出資先の上場環境の悪化により、2007年3月期以降5期連続で営業赤字を計上するなど、経営難が続いていました。
2016年1月に松本直人氏が代表取締役社長に就任。現在まで続投しています。松本氏は新卒でフューチャーベンチャーキャピタルに入社した生え抜き社員です。
カネカは2017年に大株主から外れました。現在の筆頭株主はSBI証券(東京都港区)で保有比率は6.62%。次いでマンティス・アクティビスト投資1号が2.25%を保有しています。
近年の業績は赤字続きで冴えませんでしたが、2021年3月期に黒字化して2,000万円の純利益を出しています。
2017年3月期 | 2018年3月期 | 2019年3月期 | 2020年3月期 | 2021年3月期 | |
売上高(百万円) | 365 | 756 | 573 | 454 | 860 |
前期比 | 34.6% | 207.1% | 75.8% | 79.2% | 189.4% |
純利益(百万円) | -491 | -293 | -244 | -37 | 20 |
※決算短信より筆者作成
黒字化したのは2社の上場が大きく影響しています。2020年7月15日にKIYOラーニング<7353>、2021年3月18日にi-plug<4177>が上場しました。
フューチャーベンチャーキャピタルは2016年12月に上場を予定して、後に取りやめたZMP(東京都文京区)に4,800万円を出資しており、180万株を現在も保有しています。ZMPは市場の注目度が高いスタートアップ。上場することになれば、フューチャーベンチャーキャピタルの業績に大きく貢献するでしょう。
成長性の高いスタートアップに投資をし、上場によって巨額のリターンを得るのがベンチャーキャピタルの定石です。しかし、フューチャーベンチャーキャピタルのビジネスモデルはやや異なります。ベンチャーキャピタルとしての役割を果たしながらも、ファンド数を増やしてLTV(顧客生涯価値)の向上を図る、ストックモデルを採用しているのです。これをVaaS(Venture Capital as a Service)と呼んでいます。
■VaaSの概要
フューチャーベンチャーキャピタルはファンドの管理報酬をストック収入として重視しています。
会社のKPIとして取り入れているのがLTV。LTVは顧客生涯価値を表すマーケティング用語で、一人の顧客が取引を始めてから終わるまでの間にどれだけ価値をもたらすのかを算出したものです。フューチャーベンチャーキャピタルの場合、ファンド規模を大きくすることによって付帯収入を増やし、リピートファンドを組成することで管理手数料を増やそうとしています。2021年3月末時点でファンド総額は179億8,100万円。前期比22.1%増加しています。
■LTVに紐づく経営指標の推移
フューチャーベンチャーキャピタルは、地方創生およびコーポレートベンチャーキャピタルの組成に注力しています。地方創生ファンドだけで30を超えています。
マンティス・アクティビスト投資1号が問題視したのが、このビジネスモデル。事業モデルの問題点を3つ挙げています。
①ファンド数の多さ:ファンドごとに出資者への募集営業、組成、定期報告、問い合わせ対応などに労力がかかり、労働集約的なモデルとなってしまうために案件発掘に注力できない
②投資領域の狭さ:各ファンドの地域、投資対象が限られており、勝ち目が薄く、狭すぎる
③手数料への依存:ベンチャーキャピタルの至上命題である市場平均を超過するリターンを得るという使命を全うしていない
フューチャーベンチャーキャピタルはホームラン狙いのフロー型ビジネスを抜け、収益を積み上げ型にシフトしようとしています。しかし、マンティス・アクティビスト投資1号は市場平均を超える「投資アルファ」に注力すべきだと批判しています。
マンティス・アクティビスト投資1号はフューチャーベンチャーキャピタルのビジネスモデルが抱える問題点の解決策を3つ挙げています。
①細分化モデルの決別:ファンド数を10本未満に集約する
②投資領域の拡大:地方銀行とのパイプを生かした事業再生投資などへと投資領域を拡大する
③リターン重視の原点回帰:高投資倍率を狙う投資会社への変革を図る
選任を求めた取締役候補者2名は、金武偉氏と金子正裕氏。金武偉氏はゴールドマン・サックス、JPモルガン証券、ユニゾン・キャピタルなどで投資経験を積んでいます。金子正裕氏はダスキンの事業本部長、出前館の取締役などを務めてきました。候補者2名を業務執行の中心に据え、改革を推進したい考えです。
また、金武偉氏はフューチャーベンチャーキャピタルの開示姿勢にも疑問を呈しています。フューチャーベンチャーキャピタルは2020年2月にH.I.F(東京都新宿区)のMBO(経営陣による買収)を支援する目的で3億円を出資しています。H.I.Fはエイチ・アイ・エス<9603>の連結子会社で、企業間決済サービスを提供していました。売掛債権を売買するファクタリングの会社です。
H.I.F.は投資実行直後の2020年2月に詐欺被害にあいます。イベント企画会社INI(東京都台東区)が実在しない売掛債権を売却し、3億4,600万円を騙し取ったのです。架空債券の売買は100件を超えており、総額45億円にも及ぶ巨額詐欺事件でした。イベント会社社長は2020年12月に逮捕されています。
フューチャーベンチャーキャピタルは2020年6月に3億円の減損損失を公表。しかし、それがH.I.Fによるものであることが株主には明かされていませんでした。
マンティス・アクティビスト投資1号は開示姿勢が不十分でモニタリングの強化が必要だとし、監査役3名の選任を求めました。
フューチャーベンチャーキャピタルはこの株主提案に反対しました。同社の定時株主総会は6月。その内容に注目が集まります。
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