そごう・西武の売却で優先交渉しているフォートレス・インベストメントとは

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西武池袋本店

セブン&アイ・ホールディングス<3382>が売却を検討する百貨店そごう・西武(東京都豊島区)の優先交渉権を、米フォートレス・インベストメント・グループ(ニューヨーク州)が得たと報じられています。日経新聞は提示額について2,000億円を大きく超えた模様だとしています。

フォートレスは2017年12月にソフトバンクグループ<9984>が3,729億円で買収。ニューヨーク証券取引所において上場廃止となりました。フォートレスはバイアウト投資を得意とするものの、日本においては不動産を中心に活発な投資をしています。

フォートレス・インベストメント・グループとはどのような会社なのでしょうか?この記事では以下の情報が得られます。

・フォートレスの概要
・西武とそごう売却の背景と経緯

買収後もソフトバンクグループからの独立性は保持

フォートレスは1998年1月に資産運用会社のブラックロック(ニューヨーク州)出身のウェスリー・エデンズ氏と、スイス最大の銀行であるUBS(チューリヒ)出身のロバート・カウフマン氏、ランダル・ナードン氏によって設立されました。2017年9月30日時点で361億ドル(約4兆793億円 ※当時の1ドル113円で換算)の資産を運用しています。クレジット、不動産、普通株式、未公開株式の分野で、1,750以上の機関投資家と個人投資家の資産管理を行っています。

バイアウト投資の注力領域として、金融サービス、輸送・物流、ヘルスケア、エネルギー・インフラを挙げています。主な投資先に運輸業のフロリダイーストコーストインダストリーズ(フロリダ州)があります。フォートレスは、2017年3月にフロリダイーストコーストの鉄道貨物事業を21億ドルでグルポ・メヒコ(メキシコシティ)に売却しました。

ソフトバンクグループの買収後、フォートレスは英国最大のワイン専門店マジェスティック・ワイン(ワトフォード)の小売事業を9,500万ポンドで買収しています。

ソフトバンクグループは当初、フォートレスの買収によって専門的な投資知識を吸収したうえで、ソフトバンク・ビジョン・ファンドの運用に生かす計画を立てていました。しかし、対米外国投資委員会はソフトバンクグループの業務関与を制限することを決定。ソフトバンクグループはそれに同意し、買収後もフォートレスは独立性を保ってきました。ソフトバンクグループは中国のEC最大手アリババグループの筆頭株主であり、対米外国投資委員会は中国との関係を警戒していたと言われています。

なお、2021年11月にソフトバンクグループがフォートレスの売却を検討しているとブルームバークが報じていますが、今のところそのような動きは確認できていません。

フォートレスの日本法人の代表を務めているのが、山下明男氏。一橋大学経済学部卒業、ハーバード大学ケネディスクール修士課程修了後、日本開発銀行(現:日本政策投資銀行)に入行。プロジェクトファイナンスや都市再生ファンドなどを担当しました。2006年1月にモルガン・スタンレー証券(現:モルガン・スタンレーMUFG証券)に入社。2008年6月にフォートレス・インベストメント・グループに転籍しています。2013年3月に代表に就任しました。

フォートレスは2020年9月にレオパレス21<8848>に総額572億円の出資と融資を実行しました。山下氏はレオパレス21の取締役も務めています。

ユニゾのホワイトナイトとなるもローン・スターに敗北

フォートレスの知名度を一躍高めることになったのが、2020年6月にEBO(エンプロイー・バイアウト=従業員による買収)で上場廃止となったユニゾホールディングス(横浜市)の買収合戦。ビジネスホテルを運営するユニゾは、2019年7月にエイチ・アイ・エス<9603>に56%ものプレミアムをのせた1株3,100円で敵対的TOB仕掛けられました。これに対してユニゾはTOBに反対することを表明し、8月にホワイトナイトとしてフォートレスが登場。1株4,000円でのTOBを発表しました。ユニゾはそれに賛同します。

ユニゾ株はエイチ・アイ・エスのTOB価格を上回る事態となり、敵対的買収は失敗しました。その後、ブラック・ストーン(ニューヨーク州)がTOBを提案(実行せず)したほか、ローンスター(テキサス州)もユニゾの従業員とともに立ち上げたチトセア投資がTOBを発表。ユニゾは賛同していたフォートレスのTOBに一転して反対を表明し、買収合戦は混乱を極めました。

チトセア投資の1株6,000円が決定打となり、2020年4月に買収が成立。日本の上場企業でEBOが成立したのは、これが初めてです。

ローンスターはチトセア投資の買収資金、2,060億円を提供していました。EBOは成立しましたが、新型コロナウイルス感染拡大でホテルの客室稼働率は急降下し、ユニゾの収益性は悪化しました。ユニゾはローンスターから調達した資金を返済するため、手持ちの不動産を次々と売却。ユニゾ債の格付けはジャンク債同然のものとなりました。

ユニゾは経営の独立性を保ったものの、その先に待ち受けていた現実があるべき姿だったのかどうかは疑問が残ります。

西武池袋本店が家電量販店に?

セブン&アイ・ホールディングスは2006年6月に当時のそごうと西武百貨店の持株会社であるミレニアムリテイリンググループを2,000億円超で子会社化しました。買収をけん引したのは、小売の神様と呼ばれたセブン&アイの元CEO鈴木敏文氏です。

しかし、百貨店の業績は回復せず、2009年ごろからは不採算店を閉店する徹底的な大改革へと乗り出します。それでも再生が成功することはなく、2016年4月に鈴木敏文氏が退任を表明。船頭をなくした百貨店事業は推進力を失います。そこに新型コロナウイルス感染拡大という脅威がやってきました。

セブン&アイの百貨店事業は2021年2月期に174億4,400万円、2022年2月期に81億5,300万円のセグメント損失をそれぞれ出しています。国内外のコンビニ、スーパー、金融事業が軒並み黒字となる中、百貨店だけが大赤字を出しています。売却という流れは自然なものでした。

そごう・西武の売却にはフォートレス、ローン・スター、シンガポール政府系投資ファンドGICが応札したと言われています。百貨店は事業としての価値を失っており、不動産価値に注目が集まっています。特に西武池袋本店、西武渋谷店、そごう横浜店は好立地であることから早期の黒字化が見込める店舗です。

フォートレスは、西武池袋本店にヨドバシカメラを入店させる提案をしていると見られています。

黒字化が難しいのが、所沢や秋田、福井などの地方にある百貨店。雇用を守るという観点から、閉店という選択はとりづらいのも事実です。

鈴木敏文氏ですら再生できなかった、そごう・西武の行く末に注目が集まります。

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