海外から「黒船EV」が相次いで参入、日本車は対抗できるか?

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まさに「黒船襲来」だ。日本市場に海外の電気自動車(EV)が相次いで参入している。本来なら円安で販売価格が上がり不利なはずだが、国産EVが少ないため絶好の「草刈場」になっている状態だ。日本車メーカーもEV量産にハンドルを切っているが、その前に海外の「黒船EV」が国内EV市場を押さえる懸念が高まっている。

VW、BYD、テスラ…EV大手の日本進出が本格化

独フォルクスワーゲン(VW)は11月、売れ筋のSUV(スポーツ多目的車)型EV「ID.4」を日本市場に投入した。上級モデルの「Pro Launch Edition」は1回の充電で561km(WLTCモード、以下同)ほど走行が可能で、日産自動車<7201>のSUV型EV「アリア」の470kmを大きく上回る。

「Pro Launch Edition」の価格は636万5000円と「アリア」の539万円よりも100万円近く高いが、廉価モデルの「Lite Launch Edition」は499万円と逆に40万円安い。ただし、「Lite Launch Edition」の最大走行距離は388kmと「アリア」に劣る。要はバッテリーの容量次第なのだが、車両価格は円安にもかかわらず同レベルだ。

「黒船」はVWだけではない。上陸済みの米テスラに加えて、中国BYD(比亜迪汽車)が2023年にSUV「ATTO 3」やコンパクトモデル「DOLPHIN」、セダン「SEAL」のEV 3車種を投入する。日本自動車輸入組合によると、10月のEV輸入車販売台数(日本メーカー製を除く)は、前年同月比2.3倍となる1417台で過去最高となった。この勢いは今後さらに加速しそうだ。

なぜ輸入車には不利な円安にもかかわらず、日本製EVは価格競争力で勝てないのか?その背景にはEVの生産台数がある。2022年上半期(1-6)月のプラグインハイブリッド車(PHV)を含むEV世界販売台数で、VWグループは300万台を突破した。BYDは600万台超、テスラは500万台超だ。

一方、日本車メーカーは、国内トップのトヨタ自動車<7203>ですら100万台に届かない。しかも、その大半がPHVだ。つまり日本車メーカーのEVは生産台数が少ないため量産効果が発揮できず、円安で割高なはずの外国製EVに価格面で対抗できていない。

量産効果なく、EV市場で苦境に立つ日本車メーカー

トヨタはこれを重く見て、EV戦略を一旦凍結。より低コストでEVを量産するための抜本的見直しに入った。問題は時間だ。トヨタは現在、国内ではリースしかしていないSUV型EV「bZ4X」を2025年をめどに増産する方針という。

しかし、年率で60%超の成長を続ける世界EV市場だけに、このペースで成長が続けば2025年には総販売台数の半分近い4000万台に達する勢いだ。「bZ4X」だけで対抗できる規模ではない。トヨタ車の全モデルの半分をEVにするぐらいのスピードが必要だ。

もっとも、EVの量産は簡単ではない。特に基幹部品であるリチウムイオンバッテリーの確保が急務だろう。その動きも海外メーカーに後れを取っている。米テスラは2030年までにリチウムイオンバッテリー3000GWh分の生産を目指しているが、トヨタはその時点で320GWh分とはるかに小さい。

省エネエンジンやハイブリッド車(HV)で世界を席巻してきた日本車メーカーは、EVを過小評価していたようだ。「電力不足なのにEVを増やしてどうする」との批判も聞こえるが、需要ピークを外して夜間電力で充電すれば対応できる。EVに電気をプールして家庭に供給すれば、需要ピークの山を抑えることも可能だ。

さらに燃料費も、EVの方がガソリン車の半分で済む。ガソリン価格と電気料金の相場にもよるが、両者はほぼシンクロ(同期)しており、料金差は変わらないだろう。こうした情報が増え続けるEVユーザーからクチコミで広がれば、日本でもEVシフトは避けられない。

日本車メーカーはEVシフトにハンドルは切ったものの、アクセルは踏み込めていない。イノベーションが起こる時代に、大手メーカーが高いシェアゆえに既存製品との「共食い」を恐れて乗り遅れるのは世の常だ。2022年に入ってEVシフトが避けられないことははっきりした。

あとは日本車メーカーが、どこまでアクセルを踏み込めるかにかかっている。EV市場の急成長から見て、おそらく検討している猶予は、あと1年もないだろう。判断が遅れれば、世界のEV市場から脱落することになりかねない。

文:M&A Online編集部

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