【2021年外食業界のM&A】スシローが京樽買収でテイクアウト強化へ

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京樽 川崎駅 ビル(アトレ)

2021年も新型コロナウイルスが収束する見込みは立たず、飲食店は度重なる緊急事態宣言の発令によって時短営業や休業を余儀なくされました。特に宴会需要が消失した居酒屋はその打撃が大きく、協力金の助けを得ても財政危機に陥る企業が続出しました。居酒屋「熱中屋」のDDホールディングス<3073>、その子会社で「kawaraCAFE」を運営するエスエルディー<3223>、「昭和食堂」の海帆<3133>、レストラン「XEX」のワイズテーブルコーポレーション<2798>債務超過に陥っています。

今年はスリム化を図るための子会社売却や、第三者割当増資をする企業が目立ちました。昨年に引き続いて業態の幅を広げるためのM&Aや、デリバリー・テイクアウトを取り込んで事業の多角化を選択する企業も多くなっています。この記事は2021年の主な外食M&Aを紹介する内容です。

居酒屋10月の売上は2019年比で5割以下の水準に

2021年8月には1日のコロナ新規陽性者数が25,851人と過去最多を記録しました。その後ワクチン接種が順調に進み、国立感染研究所によると12月16日の段階で2回目接種者の割合は全人口の77.5%を占め、12月25日の感染者数は322人まで減少しました。

緊急事態宣言か解除された10月は飲食店の回復は鮮明になりました。日本フードサービス協会によると、全国の2021年10月の売上高は前年同月比99.5%。2019年比で93.9%まで回復しています。9月は2019年比で78.3%に留まっていました。

回復しているとはいえ、業態によって差が生じていることも事実です。ファーストフードの戻りが早く、10月の売上高は2019年比で107.5%となりました。焼肉は100.4%、回転寿司も101.8%と2019年の水準を上回っている好調な業態です。苦戦を続けているのがファミリーレストランと居酒屋。10月のファミリーレストラン売上高は2019年比で84.1%。90%の水準まで届いていません。サイゼリヤ<7581>がコロナ収束後も深夜営業を全面的に取りやめると発表するなど、売上至上主義から利益重視へと戦略を変更したことが要因の一つとなっています。

そして大苦戦しているのが居酒屋。10月は2019年比で46.5%となりました。半分にも届いていません。これは10月から年末にかけての宴会需要が消失したことが大きく影響しています。飲食店利用の人数制限は少しずつ撤廃されたものの、居酒屋企業は2021年も一番の稼ぎ時を失いました。しかも今年は一斉に全国の飲食店が再オープンした影響でアルバイト不足が深刻化。店舗のオペレーションが追い付かず、顧客を店に入れられない店も続出しました。

大荒れに荒れたDDホールディングス

コロナ前にM&Aで事業を拡大していたDDホールディングスが、2021年2月期に85億700万円の純損失(前年同期は14億4,200万円の純利益)を計上し、3億100万円の債務超過に転落しました。これが一つの転機となり、一枚岩と思われていた組織が崩れ始めます。それを象徴するのがダイニングレストラン「アロハテーブル」を運営する盟友ゼットン<3057>との別れです。

DDは2016年9月にTOBでゼットンを持分法適用関連会社にしました。翌年の6月に連結子会社化しています。DDはゼットンの創業者である稲本健一氏を役員に迎え入れ、二人三脚で会社を牽引していました。

しかし、ゼットンは2021年12月14日の取締役会にて、「ニコアンド」を展開するアパレル企業アドストリア(茨城県水戸市)に対して第三者割当増資を決定。さらにアダストリアによるTOBに賛同すると発表しました。ゼットンは2022年2月にアダストリアの子会社となります。ゼットンは、DDから借金6億円の返済計画の提示を求められ、これを返済するためにはDDのグループ以外から資金を調達する他なかったとしています。金の切れ目が縁の切れ目となりました。

DDは2021年8月にアメリカの子会社Diamond Dining International Corporationを、代表取締役社長HIRONORI MICHAEL NISHI氏に500万円で譲渡するなど組織のスリム化を進めています。

DDの子会社エスエルディーも2021年2月期に7億4,000万円の純損失(前年同期は200万円の純利益)を計上し、3億3,200万円の債務超過に転落しています。ゼットンと同じく今のDDに子会社を救済するだけの資本力はなく、エスエルディーがどのような手を打つのか注目が集まります。

同じく、コロナで組織が瓦解した例が2019年11月に誕生したGYRO HOLDINGS(新宿区)。この会社は居酒屋「ひもの屋」などを運営するsubLime(新宿区)と「WIRED CAFE」のカフェ・カンパニー(渋谷区)が経営統合した会社です。異色の組み合わせで業界を驚かせたGYRO HOLDINGSですが、発足から半年もたたないうちにコロナに襲われました。

カフェ・カンパニーは2021年8月にロート製薬<4527>と資本業務提携を締結。ロート製薬の持分法適用会社となりました。カフェ・カンパニー代表の楠本修二郎氏はロート製薬の食分野のアドバイザリーに就任しています。ロート製薬は成長戦略の一つに食分野を置いていました。すでに薬膳料理レストラン「旬穀旬菜」などを出店しており、カフェ・カンパニーへの出資で食事業の強化に努めます。

GYRO HOLDINGSは2021年11月香港の大手投資ファンドPAGに買収されました。ファンド傘下で新たなスタートを切りました。

寿司・焼肉業態が昨年に続いて活発な一年

画像はイメージ(Photo by PAKUTASO)

2021年5月にワタミ<7522>が日本政策投資銀行が組成する飲食・宿泊支援ファンドから120億円を調達し、居酒屋を焼肉店に転換する計画を発表しました。ワタミは自前で出店することを決めましたが、コロナに強い焼肉店はM&Aで引っ張りだことなりました。焼肉店は”重飲食店”と呼ばれており、排煙装置やグリルなどの設備投資費が重い上、ビルなどの物件オーナーが臭いや火災などを嫌って出店しづらい傾向があります。それがM&Aを活発化させている主要因です。

2021年9月にGFA<8783>が黒沼畜産(山形県山中町)から焼肉「まっしぐら」を事業取得しました。GFAは金融サービス事業を柱とする会社で、宿泊施設やカフェなどの運営も行っています。2021年3月期に16億9,300万円の純損失(前年同期は4億8,800万円の純損失)を計上するなど、業績面では苦戦が続いています。飲食の幅を広げることにより、業績回復に努めます。

10月にはホットランド<3196>が、エムファクトリー(調布市)、い志井(同)からもつやき・ホルモン・焼肉事業を取得しました。ホットランドは2020年12月期に11億3,800万円の純損失(前年同期は6億7,800万円の純利益)を計上しています。2021年12月期は15億円の純利益を予定していますが、営業利益は前期比38.2%減の7億円であり、協力金によって業績悪化を食い止めている状態です。ホットランドはコロナ前からアルコール業態の出店に力を入れており、そこに焼肉やホルモン焼のエッセンスを入れることで、集客力を高めようとしています。

「ハードロックカフェ」のWDI<3068>は創業141年のすき焼きの老舗「ちんや」を8月に譲受しました。「ちんや」はコロナの影響で8月15日で一時休業を決定。WDIが暖簾を承継しました。WDIはステーキハウス「ウルフギャング」や「ハードロックカフェ」、「エッグスンシングス」など、海外ブランドを国内で展開することに強みを持っていました。老舗すき焼き店を譲受したことで、今後の事業展開にどのような変化があらわれるのか期待されています。

今後も伸長が見込まれるテイクアウト・デリバリー

調査会社の富士経済によると、2021年の外食テイクアウト市場は7兆3,552億円の予想しており、2020年比4.0%の増加を見込んでいます。デリバリー・ケータリングは9,028億円で2020年比9.5%の増加です。飲食店の料理はお店で食べるのが当たり前。コロナはそんな食文化の常識を壊しました。

こうした変化に企業も目を光らせています。「スシロー」を全国展開するFOOD & LIFE COMPANIES<3563>が、2021年4月に持ち帰りずしの京樽(中央区)を子会社化しました。京樽は都市部出店型の回転寿司店「三崎港」も運営しており、スシローは出店スタイルにも幅を持たせることになりました。

ただし、京樽はもともとの親会社吉野家ホールディングス<9861>の重荷になっていた事業。2020年2月期の京樽の売上高は285億4,400万円でセグメント利益は4億5,700万円でした。利益率は1.6%。極めて利益率が低いのです。譲受前の20219年9月期のスシローの営業利益率は7.3%でした。譲受後の営業利益率は5.8%まで下がっています。業界トップを走るスシローの動向に注目が集まります。

グルメメディアぐるなび<2440>は楽天グループ<4755>から、出前・宅配注文サービス「楽天デリバリー」事業とテイクアウトの「楽天リアルタイムテイクアウト」事業を2021年7月に取得しました。取得額は1,300万円です。ぐるなびは新型コロナウイルス感染拡大の影響で、2021年3月期第2四半期の売上高が前期比61.6%減の58億2,400万円となりました。2022年3月期第2四半期の売上高はそこから微増の4.8%増の61億500万円。回復からは程遠く、早期立て直しが急務の会社です。

テイクアウト・デリバリー主軸の会社が、飲食店へと手を広げたケースが小僧寿し<9973>。2021年7月に居酒屋「とり鉄」のFC展開を行うトランセア(中央区)を、小僧寿しの筆頭株主であるJFLAホールディングス<3069>から3億8,100万円で買収しました。

小僧寿しはデリバリー・テイクアウト需要を追い風に業績が好調で、2021年12月期第2四半期の売上高が前期比9.3%増の32億円、純利益が同220.6%増の3,500万円となっていました。外食の回復を見越して居酒屋の買収に動きました。

■2021年外食上場企業の主なM&A

開示日 買い手 対象企業・事業 売り手 スキーム  取引総額(百万円)
2021年1月7日 ダンシンダイナー J.フロントフーズ J.フロント リテイリング スキーム">株式譲渡 170
2021年2月15日 神明ホールディングス ショクブン ショクブン スキーム">第三者割当増資 1,575
2021年2月16日 万代 アルヘイムの全事業(アルヘイムフードサービス) ハークスレイ スキーム">会社分割 非公表
2021年2月26日 スシローグローバルホールディングス(現:FOOD & LIFE COMPANIES) 京樽 吉野家ホールディングス スキーム">株式譲渡 非公表
2021年4月14日 AFC-HDアムスライフサイエンス なすび 藤田圭亮氏(なすび代表取締役社長)ほか スキーム">株式譲渡 非公表
2021年4月23日 ぐるなび 「楽天デリバリー」事業と「楽天リアルタイムテイクアウト」事業 楽天グループ スキーム">会社分割 13
2021年6月14日 小僧寿し Tlanseair JFLAホールディングス スキーム">第三者割当増資 381
2021年8月13日 WDI すき焼き店「ちんや」のブランド ちんや スキーム">事業譲渡 非公表
2021年8月16日 WESTMAN, INC.(HIRONORI MICHAEL NISHI氏の資産管理会社) Diamond Dining International Corporation DDホールディングス スキーム">株式譲渡 5
2021年8月18日 GFA 焼肉店「まっしぐら」 黒沼畜産 スキーム">事業譲渡 10
2021年8月20日 メデイ ケンタッキーフライドチキン店事業(8店舗) 日新商事 スキーム">事業譲渡 非公表
2021年10月5日 ホットランド 「もつやき・ホルモン・焼肉」事業(新設会社2社) エムファクトリー、い志井 スキーム">会社分割 非公表
2021年12月14日 アダストリア ゼットン 株主 スキーム">株式譲渡 2,876

麦とホップ@ビールを飲む理由