英投資ファンド・ペルミラの誤算、スシローは回転しすぎてもはや賞味期限切れに

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※画像はイメージです

M&A Online編集部です。今回から隔週でビールを飲む理由@麦とホップさんによる「フードビジネスとM&A」の連載が始まります。ココでしか読めない書き下ろしコラムをお楽しみ下さい。

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投資ファンド・ペルミラの誤算、スシローは回転しすぎてもはや賞味期限切れに

画像:https://www.akindo-sushiro.co.jp/campaign/detail.p...

要点:3月30日に東証一部上場を果たしたスシロー(3563)。公募価格3600円に対して、終値は3410円と悲しい結果に。上場を仕掛けた英投資ファンドのペルミラは、二つの外的要因に悩まされました。「円安」と「魚価の高騰」です。そして「安値」という最大の武器を装備してしまったスシローは、それ以上の価値を提供することができないのでした、という話です。

この記事では大きく2つの情報を得ることができます。

1:スシローが急成長した要因
2:回転寿司業界が逆境に立たされている理由

10億ドルでペルミラが買収したスシローの企業価値は大して伸びていないです

画像:http://www.akindo-sushiro.co.jp/korezo/

まずはスシローが辿った歴史から。大阪生まれの「あきんどスシロー」が東証二部に上場したのが2003年。その後、2007年に主要株主が「すき家」でおなじみのゼンショーに株式を売却しました。

ところが、コストカッターで有名なゼンショーの傘下に入ることを拒んだスシロー。そこで、ゴールドマン・サックス出身者が創業した投資ファンド、ユニゾン・キャピタルに救いの手を求めました。

ユニゾンの経営戦略と、スシローの職人気質な顧客目線が、トップ企業へと押し上げました。当時の社長は調理師専門学校出身の豊崎賢一氏。仕入れに妥協を許さず、上質な寿司の提供にこだわった職人目線は多くの顧客を呼び込みました。

その一方で、出店計画や人材育成などの経営管理を行なっていたのが、マッキンゼー出身の加藤智治氏。ロジカルな視点で欧米型の経営スタイルを追求しました。

この二人の力により、スシローは2010年下半期に店頭売上高で「かっぱ寿司」を抜き、業界1位に躍り出たのでした。急成長した要因は、顧客ファーストと経営効率のバランスを保ったことによるものでした。

この逸話は、少女漫画やテレビドラマでよくある、「陽気で熱い男(金髪キャラ)」と「冷静でクールな男(メガネキャラ)」を彷彿とさせて良い感じです。その手の方々に喜ばれそうなネタです。

そんなこんなで企業価値が上がったスシロー。2012年に英投資ファンド・ペルミラへ、めでたく嫁入りしたのでした。売却額はおよそ10億ドルです。これにより、ユニゾンは540億円もの売却益を得たと言われています。

ロイターはスシローの企業価値が当時の800億円から、2016年に1500億円へと上昇していると報じています(http://jp.reuters.com/article/ipo-idJPKCN0XJ0TF)。

しかしながら、ペルミラ側から見れば、価値はほとんど変わっていません。だって、凄まじい円安になってしまったのですから。

アベノミクスの急激な円安により、ドル円は77円→113円に

画像:http://lovefreephoto.jp/blog-entry-2292.html

ペルミラ大誤算の一つはここにあります。2012年当時、東日本大震災の復興需要により、円需要が旺盛でした。77円という驚異的な円高に見舞われていたのです。

その後、安倍政権と黒田日銀総裁による異次元緩和で、大変な勢いで円安へと傾きました。

ロイターの記事をドル換算にすると…。

○2012年の800億円→10.3億ドル
○2016年の1500億円→13.2億ドル

旨味はほとんどありませんね。企業価値をどれだけ上げても徒労。こうなると、ペルミラが抜本的な経営改革を行なって、更なる企業価値を上げるという選択はありません。

しかしペルミラも、よくこんな時期に日本の企業を買いましたね。そしてユニゾンの売却時期も絶妙です。

泣きっ面に蜂。ペルミラの誤算はもう一つありました。魚価の高騰です。

新興国に食われて魚の値段は4.8ドル→7.1ドルに

IMF Primary Commodity Pricesによれば、1キロあたりの魚価は、2012年の4.8ドルから2016年の7.1ドルへと高騰しています。

背景には中国やインドなどの需要があります。環境変化の世界的な漁獲量の減少も要因の一つです。

【1キロあたりの魚価推移】単位:米ドル($)

2012年 2013年 2014年 2015年 2016年
4.8ドル 6.8ドル 6.9ドル 5.3ドル 7.1ドル

お気づきかと思いますが、恐ろしいのはドルで表記されていること。これを円安気味の日本が輸入していると考えると…。

○2012年の4.8ドル→369.6円
○2016年の7.1ドル→802円

単純計算でこうなります。もちろん、スシローは国内1位の巨大企業ですので、為替リスクをヘッジする施策をとっているでしょう。

それにしても食材原価が厳しい水準であることは否めません。いわば、回転寿司業界そのものが苦境に立たされているのです。

スシローは原価率50%をうたっています。通常の飲食店が30%前後ですから、飲食業界の中でも高めに設定されています。仕入原価がかつての倍以上の金額になっているのだからたまりません。

ペルミラの誤算の二つ目はここにあります。「魚価がここまで高騰するとは…、トホホ」。どれだけ売上を大きくしても、利益は稼げないという泥沼です。

そして追い打ちをかけるのが、回転寿司業界全体の低価格路線と、各社出店加速の傾向です。

回転寿司業界そのものに成長余地は残されていないように感じます

画像:https://www.akindo-sushiro.co.jp/news/detail.php?id=196

スシローは「ウニ」「キングサーモン」「天然黒マグロ」などの高級食材を、100円で提供し始めています。

「らーめん」や「フライドポテト」でファミレス化を図ったり、比較的高単価な店舗を開発したりと、意欲的な戦略をとっているようにも見えるスシロー。しかし、やはり低価格路線から抜け出ることはできませんでした。

2015年から新社長に就任した水留浩一氏は、スシローの経営戦略として、店舗拡大を挙げています。3年間で100店舗出店する計画。

職人気質の豊崎賢一氏は、取締役最高顧問に就任しています。豊崎氏の顧客目線のサービスは、立場が弱まったことで影を潜め、低価格だけが最大のセールスポイントに。苦肉の策で、飲食業界業績アップの快刀、店舗拡大を掲げたというわけです。

逆風が吹く回転寿司業界に、また新たな刺客がやってきました。ゼンショーが仕掛けた「はま寿司」です。はま寿司は465店舗で、スシローの450店舗を抜いて1位になりました(各社IR資料、公式HPより集計)。

売上高と店舗数ランキングはこんな感じです。

【売上高】

1位 スシロー 1362億円 (15年9月期連結)
2位 くらコーポレーション 1053億300万円 (15年10月期連結)
3位 はま寿司 1010億3400万円 (16年3月期連結)
4位 カッパ・クリエイト 803億2000万円 (16年3月期連結)
5位 元気寿司 323億1800万円 (16年3月期連結)

【店舗数】

1位 はま寿司 465店舗(17年4月現在)
2位 スシロー 450店舗(16年12月末)
3位 くらコーポレーション 385店舗(16年10月末)
4位 カッパ・クリエイト 346店舗(16年3月末)
5位 元気寿司 280店舗(16年3月期末)

ブランドを見てわかる通り、大手回転寿司チェーンはどれも低価格以上の価値が、打ち出せていません。出店による顧客の食い合いをしている構図です。

あえて違いを出すとしたら席数。スシロー、はま、くらが200席前後なのに対し、カッパは150、元気は100です。席数を減らすほど賃料・人件費などの固定費が小さくなります。その分、店舗売上高も減る代わりに、利益が出せるという構図です。

スシローは都市型店舗として、100席前後の店を試験的に出しました。今後は、固定費・変動費、回転率などを追求した経営戦略へと軸足を移すのでしょう。緻密なデータの蓄積で、小さく利益を稼ぐ形です。

チマチマした戦略は経営にとって大事な要素です。が、ファンドも投資家もデカく稼ぐことしか興味がありません。勢いを失ったスシロー。その姿は、回転寿司チェーンの限界を表しているのかもしれません。

文:麦とホップ@ビールを飲む理由/編集:M&A Online編集部