政府は10月28日、物価高騰対策を目玉とする新たな総合経済対策を閣議決定した。岸田文雄首相の看板政策である新しい資本主義の実現に向け、中堅・中小企業が生み出す付加価値の向上といった項目を設定。複数年度にわたる継続的な事業再構築や円滑な事業承継・引継ぎを強力に支援する施策などを盛り込んだ。
「新しい資本主義の加速」など4つの柱を据えた総合経済対策では、新型コロナウイルスの影響で債務が増大した中小・小規模事業者の収益力改善と債務減免を含めた事業再生・再チャレンジを支援。借り換え需要に加えて新たな資金需要にも対応する信用保証制度を創設し、資本性資金(劣後ローン)への転換による資金繰りの円滑化を図る。
また、事業承継のネックにもなっている経営者保証に依存しない融資慣行の施策を年内に取りまとめる。M&Aなどを経た事業再構築を容易にするため、債権者の多数決決議と裁判所の認可により私的整理(債務整理)ができる私的整理円滑化法制の整備も進める。
さらに、中堅・中小・小規模事業者における事業再構築や生産性向上などと一体的に行う賃上げの支援を強化。事業再構築補助金と、事業承継・引継ぎ補助金など生産性革命推進事業4補助金について、賃上げを条件とした補助内容を抜本的に拡充する。
このほか、スタートアップの起業促進では、政府系ファンドの公的資本も含めた資金供給の拡大などで事業の成長や研究開発を後押しし、国内のベンチャーキャピタル(VC)育成や海外の投資家とVCの呼び込みを図る。また、事業全体を担保に金融機関から資金を調達できる制度の早期実現も模索する。
2023年度税制改正をにらんでは、スタートアップへの投資を促す優遇税制を検討。スタートアップについて、ストックオプション税制の権利行使期間の延長を模索する。スタートアップの成長に資するオープンイノベーション促進税制は、発行済みの既存株式への投資も対象にする制度の在り方を詰める。
政府内では、大企業がスタートアップの過半の株式を取得した場合などに取得価額の一定割合を法人税から控除する案が浮上している。一連の優遇税制が実現すれば、新規株式公開(IPO)による資金調達やM&Aに応じて傘下に入った大企業の経営資源を活用しての事業拡大もしやすくなる。
総合経済対策の財源となる2022年度第2次補正予算案の一般会計歳出は29兆1,000億円程度で、地方の歳出と財政投融資を合わせた財政支出は39兆円程度。民間投資などを含めた事業規模は71兆6,000億円程度に上り、実質GDP(国内総生産)換算で4.6%程度の直接的な経済押し上げ効果が見込まれている。
岸田首相は臨時閣議後の記者会見で、「コロナで傷んだ中小企業に新たな100%保証の借り換え制度を用意するとともに、新規輸出に挑戦する中小企業1万社を支援する」などと説明。年末に取りまとめるスタートアップ育成の5カ年計画に1兆円を投じる考えも表した。
文:M&A Online編集部
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物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策概要(内閣府)
「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」について(令和4年10月28日閣議決定)