飲食店や小売店などの空きスペースを活用し、観光客などの手荷物を一時的に預かるサービス「ecbo cloak(以下:エクボクローク)」を展開するecbo株式会社(以下:エクボ)が、JRやメルカリなどから資金を調達しました。サービス開始からわずか1年で契約店舗数は1000を超え、郵便局とも提携をスタート。店舗は空きスペースを活用して収益を得られるだけでなく、集客できるというメリットもあります。飲食店では新規顧客の革新的な集客手段として、にわかに注目を集めています。さらに、アパマン<8889>やインベスターズクラウド<1435>が提携に動き、不動産業界も熱い視線を送るなど引く手あまた。日本のシェアリングエコノミーを牽引する同社が上場する日も近いかもしれません、という話です。
この記事では以下の情報が得られます。
①「ecbo cloak」のビジネスモデル
②株式会社ecboの歩み
③代表・工藤慎一氏の経営手腕
エクボが資金を調達したと発表したのは2018年2月6日。出資者として名を連ねるのは、以下の企業や個人投資家たちです。
・東日本旅客鉄道
・JR西日本イノベーションズ
・メルカリ
・赤坂優氏、廣田朋也氏、河合聡一郎氏
ほか
JRが出資しているのは、コインロッカー不足解消の一助にするためでしょう。エクボクロークは、外国人観光客が「このトランクを預けられるロッカーの場所を知らないか?」と問われたことから、ヒントを得て始まっています。エクボクロークの面目躍如といったところ。
エクボが本格的な資金調達を行うのは、これで二度目。エクボクロークを立ち上げた直後の2017年3月に数千万円の資金を調達しました。
サービス開始からわずか1年で二度の大型出資。シェアリングエコノミーという時代にあったサービス。外国人観光客が爆増するオリンピック直前。1年で1000店舗契約という成長スピード。
その注目度や実績を考慮すると、エクボは売却の道よりも、上場する確率の方が高そうです。世間の注目度が高いほど、業績に関係なく株価は吊り上がる傾向がありますので。
さて、「手荷物預かりサービス」と一括りされるエクボクロークが、なぜそれほどまでに注目されるのか。ビジネスモデルを詳しく見てみましょう。
サービスは一見、非常にシンプルです。しかしながら、きめ細かな部分への気配りが良くできています。
図に表すとこんな感じです。
ユーザーはアプリをダウンロードし、クレジットカードを登録。近くで手荷物を預かってくれる場所を探します。預かり場所として契約しているのは、カフェ・ゲストハウス・コワーキングスペース・シェアオフィス・カラオケ店・マンガ喫茶・着物レンタル店・神社・東京駅構内・郵便局など。
預かり場所としてスペースを提供すると手数料が入ってくる仕組みになっています。さらに、集客効果もあるというオマケつき。
エクボクロークは仲介手数料を得るモデルとなっています。
サービスとして優れているのは、支払いがクレジットカード払いとなっている点。ユーザー、店舗双方にとって面倒な現金決済が必要ありません。万が一、荷物が盗まれたとしても、保険が下りてカバーするという手厚さ。店舗側に負担がかからないよう緻密な設計がなされています。
・ユーザーはコインロッカーを探す手間が省ける
・店舗は手数料と集客に繋がる
・エクボは仲介手数料が入る
三方良しというにふさわしいビジネスモデルです。
次に、エクボの華々しい経歴について。
エクボの主な動きはこんな感じです。
2017年1月 | エクボクロークサービス開始 |
2017年2月 | 東京海上日動と包括的保険契約を締結 |
2017年3月 | 数千万円の資金調達を実施 |
2017年4月 | 初の関西方面(京都)へ進出 |
2017年5月 | 大阪に進出 |
2017年5月 | インベスターズクラウド子会社iVacationと提携。アパート経営アプリ「TATERU Phone」にサービスを提供 |
2017年6月 | 福岡に進出、神社とも契約 |
2017年8月 | 沖縄に進出 |
2017年9月 | 北海道に進出 |
2017年10月 | 経済産業省の「IoT活用数維新のための新ビジネス創出基盤整備事業」に参画 |
2017年11月 | JR東日本アクセラプログラムで、237案件の提案中、審査員特別賞を受賞 |
2017年12月 | IVS LaunchPad(国内最大級のITカンファレンス)で優勝 |
2018年1月 | アパマンショップと提携 |
2018年2月 | 二度目の資金調達 |
2018年2月 | 郵便局での荷物預かりサービスを開始 |
驚くべきは、営業範囲をわずか1年で全国的に広げるという、戦略と実行能力の高さ。そして、スタートアップ企業が注目するカンファレンスで賞を狙う、優れたプレゼン力。
この実力を鑑みても、オリンピックが始まる前、あと1~2年でのスピード上場は十分射程圏内でしょう。
これを1990年生まれの若者が成し遂げるのですから、日本のベンチャー業界もまだまだ注目されて良いはず。腰の重い大手企業は新規開発にリソースを割くよりも、ベンチャー企業買収に力をかける方が有利です。
ICOという資金調達手段も手伝ってか、堀江貴文氏の時代にあったような、上場信仰は薄れつつあります。有望な会社を立ち上げた若者たちは、今後確実に増加します。
次に経営者、工藤慎一氏について。
エクボ代表の工藤慎一氏は1990年マカオ生まれ。日本大学に入学し、ウーバーでインターン経験を積んだ後、2015年に起業しています。
起業直後は「エクボストレージ」という長期の荷物預かりサービスを提供していましたが、2017年にリリースした一時的に預かる「エクボクローク」が大ヒットしました。
起業家としての意思が強く、大学在学中から経営学やマネージメント、マーケティングについての勉強を毎日10時間以上も続けていました。
大学2年で企業で実際に働こうと考え、飛び込んだのがウーバーの日本法人。当時は社長と社員あわせて3人という超ベンチャー企業。そこでインターンとして経験を積んでいます。
ウーバーの日本法人は、2014年に高橋正巳氏などが中心となって立ち上げ。都内のタクシー業者などと提携してサービスをスタートしました。同社は2015年に別事業、宅食(ウーバーイーツ)も開始しています。レストランの料理を、代理人が注文者の元へ届けるというもの。
エクボクロークのビジネスモデルは、このサービスによって育まれたものと予想できます。
工藤氏が最初に興した最初のビジネスはストレージ。倉庫会社の空きスペースを、一般ユーザーに貸し出すというもの。預かった荷物を、デリバリーで届けようとするものでした。
始めたはいいものの、倉庫のオペレーション、物流のオペレーション、システム開発などとあまりに負荷がかかったために頓挫、断念します。
このあたりの判断にセンスの良さを感じます。一般人では、そう簡単にアイデアは捨てられません。この意思決定の速さが、成功の秘訣なのでしょう。
そこからエクボクロークの構想を得て2016年9月に開発をはじめ、10月にテストサイトをリリース。修正を重ねて2017年1月に本格発表を迎えています。
このスピード感こそが、今後のエクボ成長を予感させます。
文:麦とホップ@ビールを飲む理由