食べるM&A キリンビール クラフトビール市場に異変あり

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クラフトビール市場に異変あり

「とりあえずビール」――。居酒屋などでよく聞くこのフレーズも、最近はそうでもないようです。オリコンが2015年に発表した「若者のビールに関するトレンド調査レポート」によると、居酒屋などで1杯目にビールを注文する人は全体の50.8%と約半数という結果に。1杯目に限らず、そもそもビールを飲まないという人は「味が好きではない」「苦い」ことを理由に挙げる人が多いとのことでした。

そんな声を察知したのか、キリンビールはクラフトビールに目をつけます。クラフトビールは小規模な醸造所でつくられ、味やビアスタイルはさまざま。その多様性で「ビールは苦いもの」という固定概念を取っ払い、ビールを飲まない人たちを取り込もうという狙いです。

2014年7月、キリンはクラフトビール事業に本腰を入れていくことを発表。同年9月には、「よなよなエール」や「水曜日のネコ」などで知られる国内クラフトビール最大手のヤッホーブルーイングと資本・業務提携を結び、国内のクラフトビール市場の活性化を図る第一歩を踏み出しました。

さらに翌2015年の春には、クラフトビールの醸造所と飲食店がひとつになった「スプリングバレーブルワリー」を横浜と東京にオープン。醸造所でつくられたこだわりのビールをその場で飲むことができ、ビールと相性がいい料理も味わえます。ビールをただのお酒として提供するのではなく、ビールづくりを見学したり、日本のビールの歴史が学べたりといったビールに関するプラスαが楽しめる体験型スポットになっています。

同年5月には主力商品である「キリン一番搾り生ビール」でも味の多様性に挑戦。全国にある9つの工場ごとに味が異なる“ご当地一番搾り”を発売し、話題になりました。

そして、今年2016年。キリンはクラフトビール市場拡大のためにさらなる追い込みをかけてきます。

加速するキリンのクラフトビール事業

まずは、今年4月から「よなよなエール」の飲食店向け大樽を東京や神奈川などの一部エリアで販売スタート。既に「よなよなエール」が好きだという人のニーズに応えるほか、新たなファン獲得でクラフトビール市場全体の活性化を目指します。

9月には、それまでコンビニ限定で販売されていた「グランドキリン」をスーパーなどの量販店やネット通販でも買えるように販路を拡大しました。

そして、10月。アメリカのブルックリン・ブルワリーと資本・業務提携を締結。ブルックリン・ブルワリーは、クラフトビールメーカーとしてはアメリカ国内12位の規模ですが、輸出量では2位と、世界的にも有名なメーカーです。今後、主力商品の「ブルックリンラガー」をキリンの工場で生産していくといいます。

さらに、来年4月からは、原料であるホップを国内のクラフトビールメーカーに供給すると発表しました。ホップの調達をバックアップすることで、国内のクラフトビール市場を後押しするとともに、年々減少している国産ホップの需要を拡大しようという狙いもあるようです。

日本のクラフトビールのシェアはビール市場全体の1%にも満たないものですが、アメリカでは10%以上にまで急成長しました。まだまだ成長の余地があるだけに、キリンがクラフトビール事業に積極的に取り組んでいるのもうなずけます。

文:M&A Online編集部