食べるM&A アサヒビール なだ万の“旨味”で海外へアピール

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※写真はイメージです

海外に活路を見出すビール大手

そろそろビールが美味しい季節。あなたのごひいきビールはありますか? 昨年のビール系飲料の課税済み出荷量はアサヒビールが首位を守り、7年連続でトップを走り続ける結果に。けれども、2016年のビール系飲料出荷量は4億1476万ケース(1ケースは大瓶20本換算)で前年比2.4%減の過去最低となり、国内のビール市場が縮小傾向にあるのは否めません。そうなると、各メーカーが目を向けていくのが海外市場です。
ビール大手4社ともに、海外展開ではライセンス供与や資本提携、現地メーカーの買収といった戦略をとっています。特に海外M&Aは積極的に行われており、サントリーが2014年に「ジムビーム」などを抱える米ビーム社を、キリンが2015年にミャンマーのビール大手ミャンマー・ブルワリー、さらに2017年に同国のマンダレー・ブルワリーを買収したとのニュースは記憶に新しいはず。
そんな中、海外市場へのアピール手段として、アサヒビールの異色ともいえる買収が際立ちます。2014年、創業180年以上の歴史ある老舗料亭「なだ万」をグループ傘下に収めたのです。アサヒビールが外食企業を買収するのは初めてとのこと。

「なだ万」買収の“旨味”とは?

買収時のニュースリリースによれば、その目的は「老舗料亭の経営ノウハウを取得し、外食企業に対する営業提案力の強化につなげること。海外進出を積極化している外食企業に対しても、ノウハウの提供が可能となる」「国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録された『和食』文化をリードしてきた『なだ万』ブランドを、グループ力を活用し、日本国内および世界に広めていくこと」と発表しています。つまり、今回の買収で老舗の経営ノウハウを武器に、店舗向けの業務用販路の拡大、特に海外展開を視野に入れている店舗への営業力を強化し、海外に対しては和食ブームの波に乗る形で「なだ万」ブランドを通じてアサヒビールの存在を確固たるものにしていこうということです。いわば、アサヒビールの世界浸透への土台づくりといえます。

こんなところに「なだ万」買収の痕跡が!

なだ万監修の日本茶。アサヒ飲料の自販機でよく見かける。

もともとデパ地下進出などで、以前よりも親しみのある老舗という印象はあったものの、アサヒビールグループ傘下となって、「なだ万」の名前が前に出てくる機会が増えたのは気のせいではないはずです。アサヒビールの各種キャンペーンや、2016年にはアサヒ飲料からなだ万監修の緑茶が発売されるなど、国内でもそのブランドを駆使した展開を見せています。極め付けは、アサヒビール工場の売店に工場限定パッケージで置いてあるなだ万監修のクリームチーズおかき。こんなところにまで、実は買収の片鱗は表れています。
アサヒグループホールディングスの中期経営方針には、2016年~2018年の指針として「M&Aなど成長基盤の獲得に積極投資」が掲げられています。2016年に、ビールブランド「ペローニ」(イタリア)や「グロールシュ」(オランダ)、「ピルスナー・ウルケル」(チェコ)、「ティスキエ」(ポーランド)、「ドレハー」(ハンガリー)など、次々と欧州のビール事業を巨額で買収したのは、まさにその幕開けともいえる動きです。これらの拠点で来年にでも「スーパードライ」の現地生産を開始するとのこと。なだ万買収で海外に向けてのブランド力を強化し、和食ブームを味方につけたアサヒビール。さらに欧州の販路確保と舞台は整ってきました。果たしてどこまで「スーパードライ」を世界ブランドへと押し上げられるのでしょうか。今年で「スーパードライ」発売30周年という節目を境に、今後もアサヒビールの海外戦略としてのM&Aはますます加速していきそうです。

文:M&A Online編集部