JR東日本の終電繰り上げで「夜の街」はコロナとのダブルパンチ

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JR東日本<9020>が2021年春のダイヤ改正から、山手線や京浜東北線、中央線など東京駅から100キロ圏内の路線で、最終列車の運行時間を30分程度前倒しすることになった。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で深夜帯の乗客が減少していることに対応した措置だが、そのコロナ禍で息も絶え絶えとなっている「夜の街」の飲食・サービス業にとどめを刺しかねない措置だ。

終電30分繰り上げが夜の街の貴重な1回転を奪う

2020年8月の山手線での深夜帯利用客は、前年同月の3分の1にまで落ち込んだという。JR東日本では今後もテレワークをはじめとするコロナ時代の「行動様式」が定着するとみて、深夜利用は復活しないと予想している。そのため「終電時間を早めても問題はない」との認識のようだ。

現在、東京圏の終電発車時刻は下りが午前1時前後、上りが午前0時前後に設定されている。これがそれぞれ午前0時30分、午後11時30分に繰り上がることになる。これに最も打撃を受けるのは「夜の街」の飲食・サービス業だろう。来春にコロナ禍が収束したとしても、ダイヤ改正で30分早く顧客が帰宅することになる。

いわゆる1次会の会場となるような大型のレストランや高級和食・中華店は変わりないだろうが、2次会、3次会で利用される中小の居酒屋や小料理屋、バーなどは影響を免れない。特に3次会は終電が早まることで、需要自体が消滅する可能性もありそうだ。JR東日本が終電時間を繰り上げれば、当然ながら接続する私鉄も追随する。東京圏全体で「夜の街」は強制時短を迫られることになりそうだ。

「夜の街」の従業員が電車通勤をしている場合は、閉店後の後片付けのための時間が必要になる。従業員を終電に間に合わせるために閉店時間を同11時から同10時30分に早めれば、ラストオーダーや受付終了は同10時30分から同10時という具合に、どんどん繰り上がっていく。そうなれば深夜需要が残ったとしても、店側が受け付けられないということになる。「たかが30分」だが、コロナ禍で弱った「夜の街」の飲食・サービス業にとっては、貴重な「最後の1回転」を失う痛手となる。

終電繰り上げは「東京圏」の都市機能も弱める

一般企業も「他人事」ではない。「働き方改革」で残業時間を短縮し、テレワークへ移行できるのは、ほとんどが大手企業だ。中小企業ではテレワークへの移行は進んでいない上に、コロナ禍で失業者が増加したにもかかわらず人手不足に苦しめられている。コロナ感染が完全に収まり経済が回復局面に戻ると、人手不足から長時間労働が増えるはずだ。そこで終電が早まれば、深夜のタクシー利用などで企業側の交通費負担が増えることになる。

JR東日本が終電時間の繰り上げで最も期待するのは、終電後の保守作業員の負担軽減やコスト削減だろう。だからコロナ禍が完全に収束したとしても、終電時間が元に戻る可能性は低い。JR東日本は2020年4−6月期の連結決算で1553億円の最終赤字を計上するなど、四半期では過去最大の赤字に転落した。

が、交通インフラ企業として終電時間を早め、運転時間帯の短縮を常態化することは東京圏の都市機能低下にもつながりかねない。マイカー利用が当たり前の地方と違い、東京圏では鉄道が「住民の足」であり「頼みの綱」だ。

JR東日本の業績がコロナ収束後に持ち直さなければ、さらに終電時間を早める動きも出るだろう。事実、地方のローカル線では運行時間帯の短縮や本数の削減は当たり前となり、それが乗客離れを引き起こす悪循環となっている。「夜の街」だけではなく、ビジネス街や生活空間としての東京圏の活力を維持する上でも、鉄道の運行時間帯短縮は大きな「マイナス材料」となる。

文:M&A Online編集部