Defending JAPANでみる 日本の「軍事的な脅威」

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日本を取り巻く軍事的脅威について、主に在日米軍の視点から最新の映像でわかりやすく解説するビデオ番組。ケーブルテレビ(CATV)や通信衛星(CS)放送、ネット動画配信サービスなどで歴史番組を配給するヒストリーチャンネルの番組だ。

「Defending JAPAN」は日本法人のエーアンドイーネットワークスジャパン合同会社が制作した。

国土は狭いが軍事的な防衛が難しい日本

第1話では総論として、日本の本土防衛の難しさと日米同盟の重要性が語られる。日本の国土面積は米モンタナ州とほぼ同じだが、北海道から沖縄までの総延長はカナダからメキシコに至るほど長い。

長大な海岸線と経済海域を持ち、外部からの軍事侵攻を食い止めるには厳しい。さらに東アジアから太平洋へ抜けるための地理的要衝となっており、ロシアのウラジオストック港から中国の上海港に至る主要港湾機能を左右する地政学的な「ホットスポット」でもある。

第1話の「迫り来る脅威」では、世界でも米軍に次ぐ軍事力を持つ中国人民解放軍やロシア極東軍、弾道ミサイル兵器の開発を進める北朝鮮軍を、日本の軍事的脅威と位置づける。短期的な脅威を北朝鮮軍、中・長期的な脅威を中国軍と定義し、日本の防衛政策について分析していく。

この定義は順当といえるだろう。日本の防衛では北朝鮮の脅威が声高に叫ばれるが、陸軍兵力こそ中国に匹敵するものの、海軍力がぜい弱で上陸作戦はまず不可能。航空兵力も旧式機ばかりで日本の制空権を奪うどころか特攻覚悟の空襲編隊ですら日本海で1機残らず撃墜されるのが目に見えている。

唯一、有効なのが弾道ミサイルによる攻撃だが、その後が続かない。米軍による報復攻撃で金正恩体制が短期間のうちに崩壊するのは必至で、日本本土での中・長期的な戦闘は起こりえない。とはいえ独裁国家ゆえに、いきなり暴発する可能性もある。

第2話の「ミサイル防衛」では、北朝鮮軍の暴発に備えた日米の弾道ミサイル防衛網を紹介。対北朝鮮のミサイル防衛では前半にイージス艦や陸上配備型イージス・システム(イージス・アショア)で自衛隊の装備、後半には三沢基地(青森県三沢市)の米空軍F-16編隊によるミサイル基地の先制攻撃について解説する。

歴史上初めて海洋進出した「中華帝国」

第3話の「静かなるブルー」では、日本にとって中・長期的な軍事的脅威となる中国人民解放軍にロックオン。南シナ海に展開する中国海軍に対抗する、米海軍と海上自衛隊の戦略を紹介する。東南アジア諸国の多くは米国との同盟関係がなく、中国と軍事力で対抗できない。南シナ海の安定には米海軍と海上自衛隊の共同抑止力が欠かせない。

番組では地域の抑止力には軍事力だけでなく、経済力とそれに裏付けられた外交力が重要であると正しく指摘している。中国の経済規模はすでに日本の2倍以上に成長し、軍事のみならず外交でも攻勢を強めている。

中国は始皇帝による国家統一から20世紀後半までの2000年以上にわたって、海洋進出には興味がなかった。「中華帝国」のテリトリーは大陸であり、中国海軍の役割は大陸へ上陸しようとする敵国を追い払うことだった。理由は明白で、巨大な中国市場で経済が完結していたからだ。

それが1990年代からの改革開放経済で成長した中国は、海外の市場を必要とするようになった。これが中国海軍の本格的な海洋進出へ走らせることになる。日本や米国、東南アジア諸国にとって中国の海軍力強化は東アジアの安定を脅かす存在だ。

しかし、中国にとってみれば、日本列島の存在と日米の海軍力は海外との貿易で生命線となるシーラインを封鎖しうる巨大な脅威となる。それゆえに中国人民解放軍は南シナ海で、死に物狂いの強硬な軍事拡張を続けているわけだ。

最大のリスクは周辺国ではなく「日米同盟の行方」

第4話では日本が持たない戦略兵器の航空母艦「ロナルド・レーガン」を取り上げ、中国海軍の海洋進出や北朝鮮軍のミサイル攻撃、ロシア軍による極東での軍事力拡大に、米空母の航空機動力で対抗している現状を解説する。ここでも自衛隊との共同作戦の重要性が明らかにされる。ロナルド・レーガンには海上自衛隊の艦隊司令が乗り込み、共同作戦について綿密な打ち合わせを繰り返す。

アマゾン プライム・ビデオで公開中の4話を通じて、米軍と自衛隊の連携こそが日本防衛の要であることが強調される。海上自衛隊の元幹部は「海上自衛隊だけでも侵略攻撃の第1波と第2波までは食い止められるが、第3波となると難しい」と話す。一方、米軍の指揮官たちも自衛隊の支援がなければ中国やロシアの軍事力に対抗するのは難しいと率直に語る。

この番組から得られる結論は、日本防衛の最大のリスクは中国やロシア、北朝鮮の軍事力ではなく「日米同盟の行方」ということだ。番組では日米同盟の重要性については説明を尽くしているが、その行方については言及されていない。米国の経済成長が止まり、西太平洋への軍事的な影響力行使に関心を失ったらどうなるのか。

たとえば東太平洋を米国が、西太平洋を中国が支配するという新たな「世界分割」で両国が合意した場合に、日本にはどのような選択肢が残されるのか。そこは次回以降で提示されるのか、それとも視聴者が考えなくてはならないのか。今後も楽しみなシリーズだ。

文:M&A Online編集部

アマゾンプライムビデオで視聴可能。Defending JAPAN(字幕版)はこちら