ドーガン(福岡市)は、九州を拠点とする中堅企業の事業承継やベンチャー企業の資金支援、経営支援を行う投資ファンドです。潜在性の高い九州の企業の発掘、育成、再生、承継などを通して再成長を促しています。ドーガンは2017年7月に西日本新聞社(福岡市)のアドバイザリーを務め、豆腐店を運営する豆吉郎(福岡市)の買収を支援しました。豆吉郎は買収当時福岡市に直売店を2店舗、フランチャイズ方式の移動販売拠点を24か所展開していました。この買収は西日本新聞社の新規事業第1弾となるユニークな取り組みとして注目を集めました。
地方創生、地域活性化のモデルケースとして発展が期待されるドーガンとはどのような会社なのでしょうか。
この記事では以下の情報が得られます。
・ドーガンの概要
・投資先一覧
ドーガンは2004年8月に誕生したコア・コンピタンス九州が前身。2005年9月にファンド運営子会社であるCCQプリンシパル・インベストメントを設立しました。2014年1月に子会社であるドーガン・インベストメンツを吸収合併し、ドーガンへ商号変更して現在の形となりました。
ファンドの設立や運営のほか、経営コンサルティング、M&Aアドバイザリー、不動産金融アドバイザリーなど事業の幅が広いことが特徴です。九州の優良企業や人材を紹介するWebメディア「Qualities」、人材マッチングサービス「QualitiesOffer」などのメディアの運用も行っています。
代表取締役社長は森大介氏。森氏は1967年10月13日熊本市生まれ。中央大学法学部卒業後、1991年に長期信用銀行に入行。1998年にしティンバンクに転身しました。福岡出張所所長を務め、2004年8月に起業しました。
ドーガンはこれまで数々のファンドを組成しています。
■ドーガンが設立したファンド
2007年5月 | 九州事業継続ブリッジ投資事業有限責任組合 |
2008年6月 | 九州BOLERO投資事業有限責任組合 |
2012年9月 | 九州アントレプレナークラブ投資事業有限責任組合 |
2013年9月 | 九州BOLERO2号投資事業有限責任組合 |
2017年2月 | 九州アントレプレナークラブ2号投資事業有限責任組合 |
2017年10月 | 九州せとうちポテンシャルバリュー投資事業有限責任組合 |
2020年5月 | ベータ2020投資事業有限責任組合 |
2020年12月 | ドーガン・リージョナルバリュー投資事業有限責任組合 |
※ホームページの情報をもとに筆者作成
2020年12月1日にフラッグシップファンドとなる「ドーガン・リージョナルバリュー投資事業有限責任組合」を立ち上げました。九州、瀬戸内地方やその周辺地域の中堅・中小企業を投資対象とする50億円規模のファンドです。中小企業基盤整備機構が30億円の出資を決めたほか、不動産販売などを行うLAホールディングス<2986>、ゆうちょ銀行<7182>、九州みらい建設グループ(福岡市)が出資者として名を連ねています。このファンドは2021年11月30日に募集を締め切りました。
■ドーガン・リージョナルバリュー投資事業有限責任組合の概要
ドーガンの2020年12月期の純利益は前期比52.4%減の2,000万円でした。
出資先はバイオ・IT系スタートアップから老舗の食品会社、アパレル、養鶏・畜産事業者など多岐に渡っています。
【ドーガンの主な出資先】
企業名 | 事業内容 | 出資額 | 出資時期 |
株式会社AdipoSeeds | 脂肪組織に由来する細胞を用いた再生医療等製品の実用化に向けた研究開発製造パートナーへの技術ライセンス提供 | - | 2020年11月 |
株式会社KabuK Style | 定額制の住居サービス「HafH(ハフ)」を提供 | - | 2020年3月 |
AUTHENTIC JAPAN株式会社 | 会員制捜索ヘリサービス「COCOHELI(ココヘリ)」の提供 | 1億円 | 2019年4月 |
株式会社ウェルモ | 介護・福祉業界における資源利用の効率化及び行政に対する税効率化を推進するITサービスの提供 | 4億5,000万円 | 2018年6月 |
株式会社サイフューズ | 中山功一氏が発明した、スフェロイド(多数の細胞の凝集体)を 3 次元的に積層する革新的なバイオ 3D プリンティング技術を用いて、細胞のみで立体的な構造体を作製し、病気やケガで機能不全になった組織・臓器等を再生させる細胞製品開発 | 1億3,500万円 | 2017年10月 |
ニューワールド株式会社 | 日本のものづくりに特化したオンラインショップ「CRAFT STORE(クラフトストア)」を運営 | - | 2016年11月 |
三好食品工業株式会社 | 大正 8 年創業、昭和 54 年に法人設立した歴史ある豆腐・厚揚げ・油揚げの製造会社 | 1億円 | 2016年7月 |
株式会社GLコネクト | 売掛債権ファクタリング、ABL、プロジェクトファイナンスの提供 | - | 2016年3月 |
株式会社ウィズオレンジ | 一流ブランドを有するものの承継の課題を抱える地方老舗企業の事業譲受 | - | 2016年2月 |
フロンテックPRO株式会社 | 非住宅系施設向けのスチール製、ステンレス製及びアルミ製のサッシや防火扉、カーテンウォール等の製造販売会社 | - | 2015年12月 |
株式会社インプルーブ | 自動車の整備やカスタムを行いたいカーユーザと、全国の加盟工場とを結び付けるレンタルピットネットワークサービス「55ガレージ(ゴーゴーガレージ)」を運営 | - | 2015年12月 |
ウミーベ株式会社 | 釣り人必携の釣果共有カメラアプリ「ツリバカメラ」など釣り人向けスマートフォンアプリの開発 | - | 2015年9月 |
ソーシャルワイヤー株式会社 | 東京都内におけるベンチャー企業向けインキュベーションオフィス「CROSSCOOP」を運営 | - | 2015年4月 |
株式会社五島ワイナリー | 山梨県にあるワイナリーへの委託醸造により自社栽培の葡萄を使用したワイン造り | 3,000万円 | 2014年11月 |
株式会社グッドラックスリー | 3D ゲーム開発エンジン「Unity」を活用したゲーム開発に特化し、それを補完・強化するものとして、T-engine と呼ばれる独自の開発プラットフォームを構築 | 3,000万円 | 2013年12月 |
株式会社ヘリオス | 理化学研究所認定ベンチャーとして設立され、iPS 細胞から分化誘導した網膜細胞による「加齢黄斑変性」の新たな治療法につき、世界で第一号の承認取得を目指す会社 | 2,000万円(総額3億円) | 2013年10月 |
株式会社SP&S | 糟屋郡に本社を置く、アステック(豪州)の塗料輸入・卸売を手掛けるアステックペイントジャパン、建築塗装のFCチェーン運営を手掛けるプロタイムズ・ジャパン、沖縄にてアステックペイント主体の建築塗装を手掛けるアステックリビング沖縄を子会社に持つベンチャー企業群 | 3,000万円 | 2013年7月 |
株式会社西日本冷食 | 福岡市に本社を置く冷凍魚介類の製造、卸売を行っている水産ベンチャー企業 | 3,000万円 | 2013年1月 |
株式会社グルーヴノーツ | 福岡市に本社を置く、革新的なゲーム体験の提供を目的とするベンチャー企業 | 3,000万円 | 2012年12月 |
株式会社イー・エル・テクノ | 有機 EL照明の研究および製造 | 1,000万円 | 2012年11月 |
株式会社リーボ | 1~2 人乗りの超小型電気自動車を活用したカーシェアリングシステム | 2,000万円 | 2012年11月 |
株式会社ニチリウ永瀬 | 園芸・農業用品、、肥料・土壌づくりの研究開発 | - | 2012年9月 |
株式会社オーリッド | NTT データなどを主要顧客とし、独自に確立したデジタルデータ化ソリューション「O-RID」により、紙データのデジタル化作業を代行する BPO サービスを提供 | 1億円 | 2010年12月 |
株式会社筑水キャニコム | 農業用運搬具・草刈機の製造販売 | 1億円 | 2010年8月 |
株式会社アラタナ | EC サイト用の商品写真撮影代行サービス、EC サイト構築・運営の支援を主に手掛ける宮崎県の IT ベンチャー企業 | 3,150万円 | 2010年7月 |
株式会社アイキューブドシステムズ | 地域企業の基幹システムの開発等を手掛けながら、国内発のオープンソースプログラミング言語「Ruby」を活用したソフトウェア開発 | 3,500万円 | 2010年7月 |
株式会社ブリミー | 熊本県天草地域でのブリ養殖 | 600万円 | 2010年1月 |
福吉魚類株式会社 | 熊本県天草地域でのブリ養殖 | 4,200万円 | 2010年1月 |
HITOYOSHI 株式会社 | 1879年創業の国内有数のシャツ製造・販売事業者 | - | 2009年12月 |
株式会社ポルコロッソ | 革製品をはじめとしたアパレル商材(鞄・靴・スーツ・時計・アクセサリー等)の卸売・小売企業 | 3,000万円 | 2009年11月 |
株式会社イーダブリュエムジャパン | 首都圏の大企業、公共機関向けウェブサイト、ウェブアプリケーションの開発・運用 | 1,500万円 | 2009年9月 |
株式会社イーダブリュエムファクトリー | 首都圏の大企業、公共機関向けウェブサイト、ウェブアプリケーションの開発・運用 | 1,000万円 | 2009年9月 |
旭ファーム株式会社 | 昭和56年に農事組合法人として設立された養豚業者 | 3,500万円 | 2009年9月 |
株式会社キューサイ分析研究所 | キューサイ株式会社の主力製品である『青汁』原材料の残留農薬分析検査を行う研究所 | - | 2009年6月 |
有限会社松原養鶏場 | 昭和46年に設立された養鶏業者 | 2億5,000万円 | 2009年4月 |
有限会社錦江ファーム | 平成5年に設立された畜産業者 | 1億円 | 2009年4月 |
ホテルニューオータニ熊本(熊本駅前ビル株式会社) | ホテル運営 | - | 2009年2月 |
株式会社ブルーム | 化粧品の成分分析 | 3,000万円 | 2009年1月 |
株式会社サンカラー | 1967年創業の印刷会社 | - | 2009年1月 |
西久大運輸倉庫株式会社 | 運送・通運・倉庫事業を手掛ける大正6年設立の老舗企業 | 1億円 | 2008年11月 |
株式会社セパシグマ | 血漿分画製剤などの医薬品製造工程におけるウィルス除去をより効率的に行うことのできる膜を開発 | 1,000万円 | 2008年10月 |
YOCASOL 株式会社 | 1967 年創業の太陽電池モジュール専業メーカー | - | 2007年9月 |
OA通信サービス株式会社 | 「オフィス通信機器販売」から「システム開発」、「ASP事業」等の企業の通信インフラをトータルに提供 | - | 2007年6月 |
アキュメンバイオファーマ株式会社 | 失明撲滅を企業理念に掲げ、米国で中途失明原因第 1 位、日本で第 2 位であるものの根本的な治療法が未だ存在しない加齢黄斑変性の治療薬の開発 | - | 2006年8月 |
※ホームページの情報より筆者作成
IPOでのエグジットとなったのがバイオベンチャーのヘリオス<4593>です。2013年10月に2,000万円を出資し、総額3億円の投資を実行しました。ヘリオスは眼科手術用染色剤の開発、販売、iPS細胞由来の網膜色素上皮細胞の再生医療用との研究・開発を行う企業。九州大学の研究グループが発見したBBG250という染色性の高い色素を主成分とした眼科手術補助剤を、産学連携機構九州からの独占的ライセンス付与を受けて開発しています。
ヘリオスのCEO鍵本忠尚氏は、ドーガンのベンチャーキャピタル部門、ドーガン・ベータ(福岡市)の代表・林龍平氏と同じ九州大学出身で同級生でもあります。鍵本氏は九州大学医学部の眼科で研修を終え、2005年にヘリオスの前身となるバイオベンチャー企業アキュメンバイオファーマを設立しました。同時期に林氏がファンドを立ち上げ、1号案件を探していました。九州大学から誕生したバイオベンチャー企業と、九州企業の発展を目指すドーガンの投資方針が合致して出資が決まりました。
2015年6月にマザーズに上場し、公募価格1,200円に対して22.5%高い1,470円の初値をつけました。
ドーガンは多角的に事業を展開していることが最大の特徴で、投資対象はスタートアップや中小企業に留まりません。2021年9月からは老朽化したマンションのリノベーション事業を開始しました。福岡市内に本社を置く明治産業、Good不動産、ラプロスと提携し、「桜坂コーポ」の大規模改修工事を行いました。
【改修前と改修後の「桜坂コーポ」】
老朽化したマンションにおいては、所有者の高齢化や非居住化が進み、マンション再生が一部住民から望まれながらも合意形成ができないケースがあります。ドーガンは中小規模の分譲マンションの管理組合を対象に、再生に向けた支援を行います。Good不動産は保有区分建物を小口化し、再生したマンションに出資をする投資家を募ります。
国土交通省によると、旧耐震基準の分譲マンションは未だ100万戸以上存在し、適切な改修や修繕ができないまま放置されているといいます。その中には管理組合運営が困難な物件も多くあり、社会問題化が深刻です。ドーガンがイニシアティブを握ってリノベーションに向けたプロジェクトを動かすことにより、物件の価値が向上して新たな住人を迎え入れ、物件への出資者にも利回りが入るスキームを組むことができました。
ドーガンはマンションの老朽化、空き家問題解決に向けて動き出しました。
麦とホップ@ビールを飲む理由