M&Aという魔法で躍進したディズニー

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※画像はイメージです

M&Aという魔法で躍進したディズニー

ディズニーはもはや「ミッキーマウス」や「白雪姫」だけでは語れない複合企業となっている。テーマパークやホテルの経営、ニュースやスポーツ番組の放映、ライセンスやコンシューマ・プロダクツの販売など事業内容は多岐にわたる。その中でも、今回は、新たなキャラクターを生み出し、他部門の利益の源泉を作り出しているスタジオ・エンターテインメント部門に関連するディズニーのM&Aを取り上げてみたい。

アニメ部門での地位を不動にするピクサーの買収

ディズニーの2010年版アニュアルレポート(日本の有価証券報告書に相当)の最終ページを見ると「Steven P. Jobs」の名前が刻まれている。当時、故スティーブ・ジョブズ氏はアップル社のCEOであるとともに、ディズニーのBOARD OF DIRECTORS(取締役会)の一員でもあったからだ。

これは、ジョブズ氏が会長兼CEOを務めていたピクサーをディズニーが2006年に買収したことに起因する。ディズニーは1991年から3Dアニメーション制作のピクサーと業務提携しており、「トイ・ストーリー」、「ファインディング・ニモ」、「ミスター・インクレディブル」などのピクサー作品を複数配給していた。

ところが、2000年代に入って、ジョブズ氏とディズニーの当時のCEOマイケル・アイズナー氏との意見衝突などもあり、ディズニーとピクサーの関係は悪化。2004年1月にはピクサーがディズニー以外の配給会社を探すと発表するまでの事態に及ぶ。

しかし、この関係性の悪化も、ディズニーの現CEOであるロバート・アイガー氏が就任したことで緩和され、安定を取り戻す。両社はこれまでどおり配給で協力するのみならず、テーマパークの設計などでもパートナーシップを築くようになった。そして、2006年1月にはディズニーによるピクサーの買収が発表された。

買収は株式交換によるもので、ピクサー株1株に対してディズニー株2.3株を割り当てるという交換比率であった。取得価格は74億ドルとされ、2006年5月には買収の完了を発表している。当時、ジョブズ氏のピクサーに対する持株比率は50.6%であり、株式交換によりジョブズ氏はディズニーの筆頭株主となった。

なお、ジョブズ氏が1986年に映画監督のジョージ・ルーカス氏およびルーカス・フィルム社からピクサー株を購入したときの価格は1,000万ドルであった。 

映画と連動した出版を可能とするマーベルの買収

2009年8月、ディズニーはマーベル・エンターテインメントを40億ドルで買収することを発表した。マーベルは「スパイダーマン」など多くのキャラクターの権利を持つ大手コミック出版社である。ディズニーにとっては、マーベルが保有する5,000件近いキャラクターの使用が可能になる点で大きなメリットを持つ買収となった。また、将来、新作の映画から生まれたコミックなどを販売することにもつながる。

マーベル買収の方式としては、株式の取得対価としてマーベル株式1株あたり現金30ドルとディズニー株0.745株を支払うという方法がとられた。この価格は当時のマーベル株の直近終値に29%上乗せした水準であった。

買収により再び覚醒されたルーカス・フィルム

2012年10月、ディズニーはルーカス・フィルムを40億5千万ドルで買収することを発表した。同社は1971年にジョージ・ルーカス氏により設立した映画会社で、「スター・ウォーズ」、「インディ・ジョーンズ」などの作品で知られる。上述のとおり、当初ルーカス・フィルム傘下であったピクサーは、アップル傘下を経て、2006年5月にディズニーに買収されており、2012年の買収により再びルーカス・フィルムとピクサーがディズニー傘下でグループ会社となっていることは興味深い。

ディズニー傘下となってから早速2015年には「スター・ウォーズ 」7作目となる「フォースの覚醒」が公開され、2017年12月には8作目となる「最後のジェダイ」の公開が予定されている。ルーカス・フィルムがディズニー傘下とならなかったら、これらの作品が制作されなかった可能性もある。ディズニーによる買収のおかげで、今後も「スター・ウォーズ 」のスピンオフ映画である「ハン・ソロ」など新作が楽しめるのは「スター・ウォーズ 」ファンにとっても恩恵といえるだろう。

ディズニーの業績も好調

ピクサーの買収は74億ドル、マーベルおよびルーカス・フィルムの買収はそれぞれ40億ドルと巨額の買い物であるが、ディズニーにとっては十分勝算があっての買い物だった。

まず、ディズニー傘下となってからのピクサーが制作したアニメ映画のうち、特に興行収入が高いものだけでも「トイ・ストーリー3」(約10億ドル)、「モンスターズ・ユニバーシティ」(約7億ドル)、「インサイド・ヘッド」(約8億ドル)、「ファインディング・ドリー」(約9億ドル)など枚挙にいとまがない。むしろ、歴代のピクサー映画のうち興行収入ランキング上位の作品のほとんどはディズニー傘下で作られたものともいえる。

また、ディズニー傘下となってからルーカス・フィルムが初めて制作した「スター・ウォーズ 」作品であるエピソード7「フォースの覚醒」は、これまでの興行収入の記録を大幅に塗り替える約20億ドルの大ヒットとなった。「スター・ウォーズ 」の場合、特に関連商品の訴求力も強いため、たとえばマーベルから書籍を販売すれば、たちまちミリオンヒットとなる。

今後、様々なキャラクターを使用する権利を得たディズニーは、映画の製作、配給を行うスタジオ・エンターテインメント部門だけでなく、ライセンシング事業やグッズ販売を行うコンシューマ・プロダクツ部門の収益力を高めることになるだろう。

THE WALT DISNEY COMPANYの株価

The Walt Disney Company Investor Relationsより

このように盤石の体制を築きつつあるディズニーの株価は好調だ。また、それを裏付ける業績も増収増益を続けている。これらの業績は、花形である映画部門だけでなく、収益の柱となっているメディア・ネットワーク部門の堅調さの賜物でもある。

教育番組なども含むディズニーチャンネル、米国最大のスポーツチャンネルであるESPN、ニュース番組などを放映するケーブルテレビ局のABCなどを擁する主力のメディア・ネットワーク部門に加えて、ピクサー、マーベル、ルーカス・フィルムというキャッシュ製造マシーンを手に入れたディズニーへの期待が株価にも表れているといえる。

文:M&A Online編集部