ニューアート(ダイヤモンドシライシ)の仮想通貨は何だったのか

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ジュエリーブランド「銀座ダイヤモンドシライシ」を運営するNEW ART HOLDINGS(以下:ニューアート)<7638>が、2018年8月から11月にかけてICOを実施。しかし調達予定額150億円に対して集まった資金は160万円ほどでした。仮想通貨事業でこれ以上の成果が得られないことを悟ったかのように、子会社・ニューアート・テクノロジーを10万円で売却しました。新事業への参入を発表してから、子会社の売却までおよそ1年ほど。ジュエリーブランドを展開する企業に、いったい何があったのでしょうか。

Photo by Scott Webb


ウェディングプロデュース業がいつの間にか仮想通貨に

ニューアートが仮想通貨事業参入の声を上げた2017年11月前半は、ビットコインが70万円を超す高値をつけていた頃。今後更なる上昇が噂されている時期です(実際、ビットコインはその後220万円以上もの高値をつけることになります)。

同社はマイニング事業と仮想通貨取引所開設に向けて動き出しました。この時点ですでに実績があった、株式会社スピードマイニングに協力を要請。冷却効果を高めるために北海道で展開し、アイスランドなどの寒冷地も視野に入れていると意気込み充分な滑り出しでした。

しかし、実情は見切り発車に近いものだったようです。仮想通貨事業を請け負う子会社「ニューアート・コイン」は、「ニューアート・ウェディング」を商号変更したもの。ニューアート・ウェディングは、軽井沢の結婚式場「風通る白樺と苔の森」の婚礼プロデュースが主軸の会社です。前身となる会社は、ITでも何でもないものでした。スピードマイニング社に完全に寄り掛かった状態でのスタートだったのです。

しかし市場の期待は高まり、株価は29円から32円まで10.3%上昇しています。ニューアートは11月13日に仮想通貨事業の海外子会社「ニューアート・コイン・マレーシア」を設立。市場の期待を煽りました。

2018年1月31日にICOを実施すると発表。その詳細を3月6日に告知しました。新規発行トークン「ニューアートコイン」を海外の投資家に販売し、150億円を調達するというもの。ニューアート(旧:シーマ)といえば、増資を繰り返すいわゆる”株券印刷業”として名をはせた会社。株主からの反感をかわない資金調達方法として、ICOへと行きついたのです。

ブロックチェーンのダイヤモンド取引プラットフォーム構築に30億円

ダイヤモンドの履歴をすべて追えるシステムの開発を構想

調達した150億円の使い道が夢とロマンに溢れています。

主な使い道 予定金額
1.海外・国内新規出店資金 50億円
2.企業買収資金 30億円
3.ブロックチェーンによるダイヤモンド取引プラットフォーム開発 30億円
4.仮想通貨プラットフォームの開発 10億円
5.マイニングマシンの調達 20億円
6.著作権管理サービスプラットフォーム開発 10億円

※「香港子会社によるICO実施及び新規事業の検討に関するお知らせ」より

1,2,4,5はわかります。しかし3と6は、詳細に説明しないとよくわかりません。

3のダイヤモンド取引プラットフォーム開発は、イスラエルの関係機関と協力し、鑑定書をデジタル化。原産地から消費者に届くまでの全プロセスをブロックチェーン技術で透明化し、履歴を閲覧するプラットフォームを構築しようというもの。要するに、ダイヤモンドがどのように売買されてきたのか、その履歴が見られるというものです。構想は壮大ですが、そのプラットフォームを構築したことで誰が喜ぶのか、よくわからない内容です。ダイヤモンドがどのような経緯で、誰の手から渡ってきたのか。消費者がその情報を欲しがるのか甚だ疑問です。

6の著作権管理サービスプラットフォーム開発は、アートやイラストなどを含む、すべての著作物に関わることです。著作物と著作者をブロックチェーン技術で完全に紐づけ、ランダムに管理されていた著作物を一括で適切に管理できるというもの。こちらは著作者、利用者双方にとって大いに活用できそうなプラットフォームですが、日本のジュエリー企業には荷が重すぎる内容です。

同社がICOでどれだけ調達できるのか想像もできず、ひとまず大風呂敷を広げた様子がわかります。この発表があった前の月は、ビットコインが220万円にまで高騰していた時期。ICOへの期待感は高まっていました。この発表の後、株価は29円から42円まで44.8%も急上昇しています。


お祭りの後には売上高1億1100円、営業赤字1億3900万円の会社が残ることに

ニューアート・コインは、4月にニューアート・テクノロジーに社名変更しました。10月3日に仮想通貨の運用を行う孫会社ニューアート・キャピタルを設立。更に同月9日ブロックチェーン技術のエンジニアの育成などを行うニューアート・テクノロジービズを設立しています。

しかし、10月19日にニューアート・キャピタルの設立を中止しました。この辺りから雲行きが怪しくなってきます。

そして11月20日、ICOの結果が発表されたのです。調達総額は1,608,000円。夢が潰えた瞬間でした。

12月ニューアート・テクノロジー社は10万円で、香港企業Capital Intelligence Technology Ltd.へと売却されました。ニューアート・テクノロジーはICO実現に向けた活動をしていたほか、医療法人などからブロックチェーン技術を活用したシステム開発を行っていました。同社の業績はこのようになっています。

決算 売上高 営業利益
2018年3月期 1億1100万円 △1億3900万円
2017年3月期 5900万円 △6100万円
2016年3月期 - △11円

ICOが完全な失敗に終わり、売上が拡大すると原価が膨らむ典型的な赤字体質の会社が残ることに。ニューアートは早々に見切りをつけて売却しました。同社の仮想通貨事業はこうして終わりを告げたのです。

ビットコインは11月後半に50万円を切り、ちょうどバブルの終焉を迎えたときと重なりました。

ニューアートの仮想通貨騒動を時系列にまとめるとこうなります。

年月 出来事
2017年11月2日 仮想通貨事業参入を発表。ニューアート・ウェディングをニューアート・コインに商号変更。
11月13日 海外子会社ニューアート・コイン・マレーシアを設立。
2018年1月31日 ICO実施を発表。150億円を調達して、ジュエリーショップの国内外出店費用、ダイヤモンドプラットフォーム構築などを行う計画。
4月 ニューアート・コインからニューアート・テクノロジーに社名変更。
10月3日 仮想通貨の運用を行うニューアート・キャピタル設立を決定。
10月9日 ブロックチェーン技術者の育成を行うニューアート・テクノロジービズを設立。
10月19日 ニューアート・キャピタル設立を中止。
11月20日 ICOによる調達が160万円だったと発表。
12月17日 ニューアート・テクノロジーを10万円で香港の企業に売却。

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