料理人のライツ・ビジネスの確立を!|デリシャスノーツ 長屋大輔代表

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2017年9月、「おいしいを科学する」をメーンメッセージとしてデリシャスノーツ(東京都中央区)を設立した長屋大輔氏。ウェブデザイナー、飲食店コンサルティングなどの経歴を生かしての起業だ。今後は、IoT(モノのインターネット)をレストランに応用した「スマートレストラン構想」や、料理人と料理のデータを保管提供するサービスも事業領域として、飲食業の安定と発展に寄与したいとする。

「ぶけなび」の開発とM&A

長屋氏と飲食業との出合いは飲食店の居抜き物件情報サイト『ぶけなび』を知ったことがきっかけ。それまで長屋氏はウェブデザインやサーバーのレンタル事業などに従事していたが、「飲食業」はほとんど未知の領域だった。

「当時居抜きの意味もよくわからなくて、ネットで調べてみると、その物件情報の少なさに驚きました。後継者難、需要の低迷など、何かしらの理由で『店をたたみたい』と思う飲食店経営者と、少しでも早く初期投資を安く店を開きたいと思う人をつなぐ必要な情報がホントに少ない。そこで、そのマッチングサイトの構築・運営を始めました」(長屋大輔氏、以下発言は同氏)

それが「ぶけなび」だが、そのサイトの運営のなかで、飲食店の開業コンサルティングや事業承継・譲渡、M&Aにも関わることになる。

「居抜きで飲食店を開くといっても、メニュー開発、集客術、人員のオペレーション、仕入先との折衝、さらにパソコンなどの情報機器、ホームページなども必要で、新業態の開発もあります。普通の会社の起業と同じですね。そこで、それらすべてのコンサルティングを、あくまでその飲食店の運営者とお客さまに中立的な立場で最適なものを提供するお手伝いを行ってきました」

 ところが、転機が訪れる。2011年3月、東日本大震災の影響を受け、従来の『ぶけなび』の運営会社がその事業を現在の運営会社に譲渡した。事業とともに新しい運営会社に移った長屋氏は、その後、その運営会社でケータリング事業の立上げに参画。そのほか、飲食関連事業の買収も含めて多数のビジネスの立上げに参画してきた。だが、もともとロボットに強い興味を持っていた長屋氏はドローンやIoT、AIが市場に出回り始めた状況を機にロボットなどの技術によって飲食店をサポートする事業を実現したいと思い、2017年にデリシャスノーツを立ち上げた。

多事業の展開が顧客にとっての効率性向上につながる

「飲食業は、たとえばホームページから受ける店の印象と来店客が受ける店の印象のギャップが大きいケースもある業種。ネットとリアルのギャップは、お客さまの満足度に直接影響します」

長屋氏は、飲食店の「人・金の問題」も踏まえて、このギャップを埋めるサービスを展開することが、結局はお客のため、運営者のため、ひいては飲食店、世の中の飲食業のためになると考え、主に次の事業を「商品」として掲げた。

  • オリジナル公式スマホアプリ『app-me(アップミー)』アプリ作成
  • 飲食店ホームページ制作
  • 飲食店コンサルティング業務
  • 料理写真専門撮影代行サービス
  • 飲食店求人運用サービス『Delicious Works』
  • Googleマイビジネス最適化
  • グルメサイト更新代行プラン


「商品は多方面にわたります。飲食店に関わる業務は、たとえばメーカーがある商品を開発・販売する場合のように、特定の一部分を請け負うのはむずかしい業態。お店全体の活性化を図るのが、お客さまにとっても効率的なのです」

そのようなビジネス展開のなかで、長屋氏も所属する「これからの時代の・飲食店マネジメント協会」という団体から声がかかり、この2月に「これからの飲食店 集客の教科書」(同文舘出版)の執筆にも加わった。従来のいわばアナログの集客とともに、デジタルを活用した集客の必要性を訴求した書籍である。 

飲食×IoT×ロボットで見えてくる事業

ロボット、AI、権利保護……飲食業もずいぶん変わりますね

そんな長屋氏が、上記のビジネスに加え、今後、より一層力を入れていきたいとするジャンルがいくつかある。

  • スマートレストラン構想
  • AI(人工知能)オペレーションの開発と導入
  • 農薬散布ドローン導入コンサルタント


それに加えて、料理人データ保管提供サービス「デリシャスノーツ」だ。これらのうち、上記3事業はいわば飲食分野におけるIoTの活用事業、ロボット関連事業という括りができるだろう。

「これからの時代、GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)がIT業界の主導権を握っているように、今後はロボット関連事業を制覇したような企業が、世界の覇権を握るようになると思います。そのとき、そこに関連するものを事業領域として踏まえておきたい。じつは幼少期から好きだったSF映画やゲームの影響もあり、ロボットの会社をつくるのは、子どもの頃からの夢でした(笑)」

また、料理人データ保管提供サービス「デリシャスノーツ」とは、料理人とその料理のデジタルデータを同社が一元管理し、その保管や運用を行い、国内海外を含め情報提供サービスを展開するというもの。

「音楽や書籍に著作権があるように、料理にも創作者の権利がある。その権利を保護するとともに、たとえば海外でのスマートレストランの創作料理展開に利用できるようにすれば、文化の保護や料理人の権利の確保・地位向上にも貢献できます。母親の手づくり、“おふくろの味”の承継やM&Aといったことも視野にいれています。これらはすべて、メインメッセージである『おいしいを科学する』に合致した事業で、この面での研究も進んでいる全日本・食学会のメンバーにも協力を仰ぎながら、今後、より充実した事業として育てていきたいですね」

現在、同社の正社員は長屋氏1人。ほかアルバイトや業務委託として7人にテレワーク体制で協力してもらっている。

「じつは創業はあえて資本金が1円の1円起業をしてみました。創業当時、それが理由で銀行の法人口座開設を断られたりした弊害はありましたが、資本金1円のその法人登記簿謄本を見て感激しました。これこそ正真正銘1からのスタート。一緒に働く仲間とは、当面300万、ゆくゆくは1000万円、1億円と増資し、事業を充実できれば、一緒に働く仲間との達成感・喜びも分かち合える。それが会社成長の楽しみです」

M&A Online編集部