深海潜水艇タイタン事故「経営者の突然死」にどう対応すべきか?

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事故を起こした深海潜水艇「タイタン」。犠牲者には企業経営者も(Photo By Reuters)

タイタニック号観光ツアーに就航していた民間深海潜水艇「タイタン」が北大西洋で沈没した事故は、全員死亡という最悪の結末となった。同ツアーは1人25万ドル(約3500万円)の超高額ツアーだけに、参加者は富裕層ばかりで中には企業経営者もいた。経営トップの「突然死」に、企業や遺族はどう対応すればいいのか?

経営者が突然死したら、先ずは関係者への連絡

「タイタン」は圧力隔壁に何らかの不具合が生じて巨大な水圧で押しつぶされた結果、瞬間的に圧縮された空気が爆発を起こす爆縮現象で破壊されたと見られる。遭難と同時に通信が途絶しており、乗客がタイタンから遺言を伝える時間はなかった。

経営者の突然死は、同ツアーのような特別な状況下だけで起こるわけではない。たとえば経営者が、日常誰でも巻き込まれる可能性のある交通事故や、現役のプロスポーツ選手でも起こっている急性心不全などで意識が戻らないまま死亡した場合は全く同じ事態になる。

大手企業の場合は、残った取締役が経営を引き継ぐ。困るのは中小企業や、大手でも重要な決定をすべてオーナー経営者1人で差配しているような企業だ。もちろん遺言書を残し、自分の死後の指示をしていれば混乱は少ない。ただ、経営者が重病で余命幾ばくもない、あるいは相当の高齢である場合を除いては、遺言書を準備している経営者は少数派だろう。

経営者が突然死したら、何も決まっていなくても先ずは従業員や取引先などの会社関係者へ「社長死去」の連絡をする。最近よくある「密葬が終わった後に死去の事実を公表する」のは、経営者ではあり得ない。会社側の連絡よりも先に社長死去の噂が関係者の間で流布するようでは、従業員や取引先からの信用を失うからだ。

ただし、葬儀は別。従業員や取引先関係者の参列をお断りし、身内だけでの葬儀を選択しても問題はない。社葬を実施する場合は、通知すべき取引先をリストアップすると同時に、社葬の責任者を決め、従業員の役割分担も決めておく。具体的な段取りは葬儀業者の指示に従えばよい。

トップ選びが難航したら、第三者への事業承継も視野に

次に新社長を決めて、新しい経営体制を決める。株式会社の場合は取締役会による新社長の選任、代表取締役の変更登記、社長の名義変更などを済ませておく。これも時間との戦いで、もたつくと実際にそうでなくても「後継者争いが起こっている」との印象を社内外に与えるので注意したい。

中小企業の社長は金融機関の借り入れに当たって連帯保証人になっているケースも多い。故人に代わって新社長や相続人が連帯保証人となる手続も必要だ。さらに社長個人が担保を提供している場合も、その変更や登記が必要になる。

親族内承継の場合、後継者候補が取締役や社員として在籍していれば比較的スムーズに経営権の移行が可能だが、遺産相続が絡むケースもある。複数の親族が株式を保有している場合は、新経営者に株式を集約するための交渉や手続が必要だ。経営者が会社に貸し付けをしたまま死去した場合は、貸付金債権は相続財産として相続税が課税されるため、税務処理も必要となる。

最悪のケースは親族や社内に後継者がいない場合で、会社清算の可能性も。そうなれば相続人も清算処理に費用と手間がかかり、従業員は職を失い、取引先は業務に支障をきたす「三方悪し」に陥ってしまう。こうした最悪の事態を回避するためには第三者への事業承継、すなわちM&Aしかない。

残された遺族が経営に参加する意志がない場合も、第三者への事業承継が有効となる。遺族にとって簡単に売買できない非上場株の相続は厄介だからだ。第三者への事業承継であれば、買い手は企業なのでスムーズに売買が成立する。承継の意志がない遺族の場合、オーナー経営者に比べれば相続した企業への思い入れは小さいので、買い手企業にとっても迅速にM&Aできるというメリットもある。

相続人は会社売却で相続資産が増え、従業員の雇用は維持され、取引先もこれまで通りの取引が維持されるという「三方良し」となるのだ。M&A仲介大手ストライクの荒井邦彦社長は「社長の急死に伴う第三者への事業承継にも対応している。困ったらぜひ相談してほしい」と話す。経営者の急死という悲劇に巻き込まれたら、M&Aという選択肢も考慮に入れておくべきだろう。

文:M&A Online