米国本社が倒産しても日本のDEAN&DELUCAが存続している理由

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DEAN & DELUCA マーケットストア アトレ恵比寿店

米国のDEAN & DELUCA(ディーンアンドデルーカ)が、2020年3月31日に米連邦破産法11条の適用を米ニューヨークの裁判所に申し立てて、2年近くが経とうとしています。倒産(負債総額約550億円)した後も日本の店舗は通常通り営業をしており、破産の影響は一切受けていません。

日本でのお馴染みのブランドだけに衝撃も大きいものでしたが、国内の店舗を運営するウェルカム(東京都目黒区)は同ブランドの国内での商標権の全面的なライセンスを取得しており、日本での営業には何ら影響はないと倒産翌日に早々と発表しました。このウェルカムとは、どのような会社なのでしょうか?

この記事では以下の情報が得られます。

・ディーンアンドデルーカの詳細
・ウェルカムの概要と業績
・オイシックス・ラ・大地<3182>と締結した資本業務提携の内容

米国本社はタイの不動産会社が買収

ディーンアンドデルーカは、1973年に教師をしていたジョルジオ・デルーカ氏がソーホー地区で開いたチーズショップが先駆け。1977年にジョエル・ディーン氏とジョルジオ・デルーカ氏の2人がソーホー地区で現在のブランドの原点となる店舗を出店しました。

シチリア産のエクストラ・バージンオイル、オランダ産のスモークゴーダチーズなど、2人が世界を旅して発見した食材を取り扱いました。当時珍しかった食材に加え、ジャック・セグリック氏の手による無駄をそぎ落とした店舗やラッピングのデザインがセレブリティの支持を得て、人気を獲得します。

1988年にマンハッタンへと移転。このころには野菜、果物、チーズ、ベーカリーなど幅広い食材を取り扱い、マーケット風の店づくりへと変化させました。ディーンアンドデルーカのブランドは米国中へと知れ渡り、その評判はやがて日本にも及びます。

海外1号店が日本の三菱UFJ信託銀行本店ビル1階にある「カフェ丸の内」です。仕掛けたのは伊藤忠商事<8001>でした。伊藤忠商事は2003年に米国ディーンアンドデルーカと戦略的業務提携を締結。同ブランドの海外戦略をバックアップする契約を結びます。伊藤忠が日本での運営者として目をつけたのが、ウェルカムの代表である横川正紀氏でした。

横川氏の父はすかいらーくホールディングス<3197>の創業者である横川紀夫氏。横川正紀氏は京都精華大学美術学部建築学科卒業後、インテリア販売の会社に就職。その会社が経営に行き詰り、自ら立て直しを図るため2000年にジョージズファニチュア(後のウェルカム)を設立しました。

2001年京都にインテリアショップ「GEORGE’S」、カフェ「ask a giraffe」、東京・青山にライフスタイルショップ「CIBONE」をオープンしました。雑貨や食を組み合わせ、ライフスタイルの提案する店舗展開は、現在の日本のディーンアンドデルーカに通じるものがあります。

2002年にディーンアンドデルーカジャパンを設立(2016年にウェルカムと統合)。2003年6月に丸の内に1号店をオープンしました。ウェルカムは2016年3月に米国のディーンアンドデルーカから日本国内の商標権の全面的なライセンスを取得しました。資本関係もなく、倒産の影響からは隔離されることとなったのです。

米国のディーンアンドデルーカの株式93.56%を保有するディーンアンドデルーカ・ホールディングスが、2014年にタイの不動産会社ペース・デベロップメントに1億4000万ドル(当時約165億円)で株式を売却。米国の直営店や米国以外のライセンス契約をペース・デベロップが引き継ぎました。

ペース・デベロップメント傘下に入り、ディーンアンドデルーカは1億ドル以上を投資してブランドの再生に努めました。一時は全米オープンテニスやゴルフのPGAツアーのオフィシャルスポンサーとなり、「Dean&DeLuca Invitational」というスポーツイベントを行ってオリジナル商品の販売しました。

新コンセプト店舗である「STAGE」もオープンしましたが、再起は叶わず投資額が膨らんで取引先への支払いが遅延するようになります。2019年10月にペース・デベロップメントが26億4,500万バーツ(当時約92億5,000万円)の債務不履行に陥ったと発表しました。ペース・デベロップメントは本業の不動産業でも業績が悪化。2018年12月期の最終損益が51億バーツの赤字でした。2020年3月31日に米ディーンアンドデルーカが破産申請することとなります。

国内のディーアンドデルーカが順風満帆かと言えば、そうでもありません。

新型コロナウイルスを乗り越えられるか?

2019年5月にオイシックス・ラ・大地<3182>を引受先とする第三者割当増資を実施しました。オイシックスはウェルカムの株式18.03%を追加取得。保有比率が20.08%となってウェルカムはオイシックスの持分法適用会社となりました。オイシックスはこの出資に11億円を投じています。

ウェルカムとオイシックスのシナジー効果(画像はプレスリリースより)

ディーンアンドデルーカは都市部の好立地に出店をしており、オイシックス側にとって販売チャネルの拡大は魅力的なものでした。ディーンアンドデルーカのブランド力も強く、オイシックスの会員に対する満足度向上にも寄与します。

ディーンアンドデルーカはオイシックスのECノウハウを吸収できるメリットがありました。しかし、ディーンアンドデルーカは資本提携の翌年に新型コロナウイルス感染拡大の影響を大きく受けることとなりました。

ウェルカムは2020年6月期に9億6,000万円の純損失を計上。オイシックスは、ウェルカムが当初想定していた収益が見込めなくなったとして、2020年3月期において3億200万円の持分法による投資損失を計上しています。更に2021年3月期に、帳簿価額2億5,700万円のウェルカム株の評価損4億2,100万円を計上しました。

コロナの影響は長期化すると見られ、ウェルカムの経営難は続くと予想できます。オイシックスは追加出資するのか、切り離すのか。はたまた別の会社がウェルカムに出資をするのか。日本で根強い人気をほこるディーンアンドデルーカの動向に注目が集まります。

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