大庄が32店舗の大量閉店決定、通期予想を黒字から赤字へ修正

alt
庄や 矢向店

居酒屋店「庄や」を運営する大庄が、2022年7月15日に業績の下方修正を発表しました。2022年8月期は4億5,500万円の純利益を予想していましたが、7,600万円の純損失へと一転。6月から8月にかけて32店舗もの退店を決定し、店舗閉鎖等に係る減損損失1億3,900万円の減損損失が業績に大きく影響しました。

大庄は新型コロナウイルス感染拡大以降、カラオケ事業をコシダカホールディングス<2157>に事業譲渡するなど、選択と集中を進めていました。コロナの再拡大に加え、政府や自治体の支援が得られないことが鮮明になりつつある今、居酒屋ビジネスは更なる縮小を迫られる可能性があります。大庄はボランタリーチェーン化による立て直し策を打ち出しました。

この記事では以下の情報が得られます。

・大庄と鳥貴族の業績推移
・大庄が大規模な退店をし、鳥貴族がそれを免れている理由

コロナ後はFC比率が勝敗を分ける

大庄は2022年8月期の通期売上高を380億1,900万円としていましたが、3.4%減の367億1,200万円に修正。営業損失を42億1,500万円から47億4,900万円へと5億円以上赤字幅を広げました。売上高の減少については、まん延防止等重点措置が解除された3月22日以降、客数は回復すると予想していたものの、想定よりも下ぶれているとしています。

同規模の居酒屋店を運営し、決算期が7月と近い会社が鳥貴族ホールディングス<3193>です。2社の売上推移は驚くほどよく似ています。

大庄は2022年8月期の売上高を367億1,200万円と予想しています。これはコロナ前の2019年8月期の39.8%減となる数字。鳥貴族は2022年7月期の売上高を204億2,300万円と予想しています。コロナ前の2019年7月期の43.0%減となる見込みです。

売上高の減少幅は近いところにありますが、鳥貴族は2022年7月期に11億9,800万円の純利益(前年同期は4億6,600万円の純損失)を予想しています。大庄が赤字で、鳥貴族が10億円以上の黒字となるのはなぜでしょうか?

※大庄決算短信より筆者作成(純利益は右目盛り)
※鳥貴族決算短信より(純利益は右目盛り)


この違いを生んでいる要因の一つに、フランチャイズ加盟店と直営店の比率があります。鳥貴族の方がフランチャイズ比率が高く、家賃などの負担を軽減することができたと考えられます。

コロナ前、2019年8月末の大庄の店舗数は616、2019年7月末の鳥貴族は659店舗でした。両社は近いところにあります。このときの大庄のフランチャイズ比率は20.8%、鳥貴族が37.3%でした。鳥貴族はフランチャイズ比率がやや高くなっています。

2019年8月期の大庄の売上高は610億3,200万円。2019年7月期の鳥貴族の売上高が358億4,700万円でした。大庄が1.7倍上回っています。一方、大庄の同時期の営業利益率は1.2%、鳥貴族が3.3%。フランチャイズ比率が高い鳥貴族は固定費を抑えられていたため、営業利益率も高い傾向にありました。

大庄はコロナ禍でフランチャイズ加盟店を失ってしまいます。2022年2月末時点で65店舗となりました。コロナ前の128から63店舗減少しています。

※大庄「決算説明資料」より
※鳥貴族「決算短信」より

一方、鳥貴族は大きく変化していません。

下のグラフは、大庄と鳥貴族の総店舗数に占めるFC比率の推移です。大庄はコロナ後、FC比率が15%程度まで低下しています。

大庄の2022年2月末時点での直営店は361、鳥貴族は384(2022年1月末)です。2社の直営店数は大きく変わりません。

大庄が3カ月という短期間で32店舗もの退店を決定した背景には、FC比率が低く、直営店の経費で利益が圧迫されるために減損損失を計上しても退店せざるを得ないことがあります。

黒字化のカギはボランタリーチェーンにあり

大庄のフランチャイズ加盟店が激減するきっかけとなったのが、主要なフランチャイジーであるかんなん丸<7585>の大規模閉鎖。かんなん丸は2021年1月の取締役会において、庄や11店舗、日本海庄屋11店舗、やるき茶屋3店舗、うたうんだ村2店舗の合計27店舗の閉鎖を決議。80名の希望退職者を募集しました。

かんなん丸は現在も大庄のパートナーであることは間違いありません。2022年3月末の段階で、庄やを21店舗、日本海庄屋を6店舗、合計27店舗運営しています。大庄のフランチャイズ加盟店の41.5%を占めています。

かんなん丸は2022年6月期に6,000万円の経常損失を予想しています。2022年6月期第3四半期において、4億1,700万円の補助金収入を得てもなお黒字化できないのです。今後は時短協力金を得られない可能性の方が高く、店舗数の更なる縮小を余儀なくされるかもしれません。

大庄は直営店をボランタリーチェーンへと進める計画を立てています。大庄が進めているボランタリーチェーン化とは、直営店の経営を社員やスタッフなどに引き渡し、フランチャイズと同様のものにすることです。ボランタリーチェーンにより、運営する側は店舗への初期投資を抑制し、独立することができます。大庄は直営店を退店する必要がないため、損失を回避できます。家賃や人件費の負担も軽減できます。

直営店50店舗をボランタリーチェーンへと移行する予定です。フランチャイズ比率が鳥貴族と同じく35%程度となれば、黒字化できる可能性があります。

大庄の2022年2月末の店舗数から退店する分を引き、50店舗をフランチャイズへと移行すると、FC比率は29.2%。現在の15.3%から大幅に改善できます。

ボランタリーチェーンへの移行が成功して黒字化できれば、ウィズコロナ時代における直営店型居酒屋企業の成功モデルとなるかもしれません。

麦とホップ@ビールを飲む理由