東芝の買収交渉に入ったCVCキャピタル・パートナーズとは

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東芝が買収交渉に入ったと報じられています。買収を狙っているのが英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズ。CVCは今年2月に資生堂からTSUBAKIなどの日用品事業買収を決めています。CVCはいったいどのようなファンドなのでしょうか。CVCが関与した東芝、資生堂、すかいらーくの買収の詳細とともに解説したいと思います。

存在感を増すCVCキャピタル・パートナーズ

CVCキャピタル・パートナーズは1981年に設立されたイギリスのプライベートエクイティ(PE)ファンドです。長期投資を基本戦略としており、投資先企業の事業再編を図る手法に強みがあります。シティグループのベンチャーキャピタル部門が出発点となっており、全世界23拠点で13兆円の資産を運用しています。

小売り・サービス業、製造業への投資が多くなっており、特に日本では小売り・サービス業での活躍が目立ちます。信和<3447>、すかいらーく<3197>、りらく(大阪市)などに出資しています。今年2月には資生堂<4911>の日用品部門を買収すると公表しました。

日本法人の代表は赤池敦史氏。東京大学工学部出身で、米プライスウォーターハウスクーパースを経てマッキンゼーで半導体やエレクトロニクス業界の経営戦略に携わりました。その後、日本の投資ファンドの先駆けであるアドバンテッジパートナーズのシニアパートナーを務めています。2015年にCVCの日本代表に就任しました。

赤池氏は「外資就活ドットコム」を運営するハウテレビジョン<7064>や、2021年3月に上場したココナラ<4176>の役員も務めています。

すかいらーくのMBOに出資

CVCは、すかいらーくに出資をして再生支援したことで有名です。すかいらーくはバブル期の過剰出店によって業績が悪化。2006年6月にMBOによる非上場化に踏み切ると発表しました。2,500億円という当時日本最大規模のMBOは、野村グループが1,000億円、CVCが500億円を出資して実現しました。翌年にすかいらーく創業者の横川竟氏がCEOに復帰します。

ワンマン体制で組織再編を牽引することになりましたが、再建計画は暗礁に乗り上げ、株主のファンドが横川氏の解任を銀行団とともに画策。横川氏がこれを一蹴します。

2008年の臨時株主総会で野村グループとCVCが提案した横川氏の解任案が決議されました。こうして、ファミリーレストランの生みの親がすかいらーくから去ることとなりました。

社長に就任した谷真氏とファンドとの新体制下で、すかいらーくは売上重視から利益重視の経営へと変わり、不採算店の退店と業態転換を進めました。特に古臭いレストランの象徴となっていたすかいらーくは、ガストへと急ピッチで転換されました。2009年10月に最後のすかいらーく川口新郷店が閉店。ブランドは消滅します。

その後、すかいらーくは2011年10月に米投資ファンドのベイン・キャピタルに2,600億円で買収されています。ベイン・キャピタルのもとで2014年に再上場を果たし、老舗ファミリーレストランの復活劇が幕を閉じました。

資生堂はなぜTSUBAKIを売却するのか

資生堂はTSUBAKIやUNO、SEA BREEZEなど日本で馴染み深い日用品事業をCVCに売却します。譲渡価格は1,600億円でした。

資生堂は35%の出資比率を維持して日用品事業の共同運営体制を維持
引用「資生堂2020年度第4四半期決算説明資料」より

資生堂は2014年に初の社外からの経営者を招聘していました。プロ経営者の魚谷雅彦氏です。魚谷氏は日本コカ・コーラで爽健美茶や紅茶花伝などのヒット商品を手掛けたマーケティングのプロ。2013年に資生堂マーケティング統括顧問、2014年に社長に就任しました。

社長就任後、2020年に売上高1兆円を目標と掲げ、2017年12月期に前倒しで達成しています。その後も業績は順調に推移していました。

しかし新型コロナウイルスの感染拡大でインバウンド需要が消滅。資生堂の2020年12月期売上高は前期比18.6%減の9,208億8,800と1兆円を割りました。猛烈なスピードで経営改革を進めてきた魚谷氏は、売上の10%に満たない日用品部門を早い段階で切り離し、需要回復を待ちつつコア事業に集中する作戦をとりました。合理的かつ潔い経営判断はプロ経営者の面目躍如といえるでしょう。

アクティビストファンドに翻弄される東芝とCVCの関係

最近では、東芝のCVCによる非上場化が現実味を帯びてきました。買収額は2兆円を超える見通しです。東芝のCEOを務めた車谷暢昭氏とCVCは深い関係があります。車谷氏は三井住友銀行出身(旧三井銀行に入行)。2017年5月にCVCキャピタル・パートナーズの日本法人の代表に就任しています。その後、2018年4月に経営危機のあった東芝のCEOに就任しました。東芝メモリ(現キオクシア)をベイン・キャピタルに売却した立役者となります。

東芝の社外取締役の藤森義明氏もまたCVCの最高顧問を務めています。東芝とCVCの関係は深く、M&Aの知識や経験の深い人物で固められていました。

東芝は2006年に買収した原子力発電のウエスチングハウスののれんの減損による債務超過に陥り、上場廃止寸前にまで追い込まれました。それを回避すべく2017年に6,000億円もの大型増資に踏み切ります。しかし割当先にアクティビストファンドが潜んでいました。これが今回の買収提案に繋がります。

アクティビストファンドは、東芝の巨額増資のようなイベントを利用して割安で株式を手にします。保有比率を高めて経営改革や増配、自社株買いなどを迫って持ち株の価格上昇を狙うのです。「もの言う株主」とも呼ばれています。

東芝のアクティビストファンドの筆頭がエフィッシモ・キャピタル・マネージメントです。旧村上ファンドの出身者が2006年にシンガポールで立ち上げた投資ファンドです。国内有数のアクティビストファンドで、学研ホールディングスの社長解任の株主提案をしたことで知られるようになりました。

エフィッシモは、2020年7月東芝の定時総会で議決権行使書の集計業務を委託した三井住友信託銀行で不適切な処理があり、議決権の一部が反映されなかったことを問題視。調査を求めて臨時総会の招集要請をしました。今年3月18日に開かれた臨時株主総会でエフィッシモの提案が可決されました。

また、アクティビストとの対立が続いていた車谷CEOは辞任。後任として綱川智氏が復帰する予定です。

こうしたアクティビストとの対立と決別するために株式の非公開化を狙います。アクティビストの排除によって意思決定のスピードが上げられるようになるのです。

TOBはアクティビストが買収価格に応じるかどうかがカギとなります。CVCが巨額買収をどのようにアレンジするのか注目されます。

文:麦とホップ@ビールを飲む理由