大塚製薬や大塚食品を中核企業とする大塚ホールディングス(HD)<4578>が『クリスタルガイザー』を製造販売する米国クリスタルガイザーウォーターカンパニーに資本参加したのは、約30年前の1990年のこと。1994年には大塚グループの大塚ベバレジ(当時)が、『クリスタルガイザー』の輸入販売をスタートさせた。
正式な商品名は『クリスタルガイザーアルパインスプリングウォーター』。CRYSTAL(水晶)、GEYSER(間欠泉)、ALPINE(高山の)、SPRING(泉)に由来している。ALPINEとは米国で最も美しい山のひとつされる標高4,317メートルのMt.Shasta(マウントシャスタ)。『クリスタルガイザー』は、秀麗なその山のふもとの湧き水を源泉とした軟水(硬度38mg/L)だ。
1990年当時、大塚グループによるクリスタルガイザー社の買収は、M&Aといっても数十億円規模の資本参加であり、いわば目立たない買収だったようだ。その状況は、一言でいうと、「小さく買って大きく育てる」手法が奏功したといえる。
1994年、大塚ベバレジが輸入発売を始め、その大塚ベバレジは2010年に大塚食品に吸収合併される。一方、大塚ホールディングスが設立されたのは2008年。大塚グループは大塚製薬、大塚食品をはじめ、現在、世界28か国・地域に180社を展開し、約4万5000人の社員が働く巨大グループとなった。そのなかにあって『クリスタルガイザー』は、大塚ホールディングスの傘下企業、大塚グループ各社の再編の激流に揉まれながらもミネラルウォーター市場に浸透した。
ここで、日本でのミネラルウォーターの黎明期を振り返ってみよう。先駆けは1983年、ハウス食品がカレー用のチェイサーとして『六甲のおいしい水』を発売したことといわれている。
その後、1989年から1991年にかけて、サントリーやキリンなど飲料大手が続々と家庭用ミネラルウォーター市場に進出してきた。大塚ベバレジによる『クリスタルガイザー』の発売は、それら飲料大手のミネラルウォーター市場への進出と軌を一にするものだった。
1994年、大塚ベバレジは『クリスタルガイザー500ml』の輸入発売を開始した後、2000年には『クリスタルガイザー310mlペットボトル』を発売、2004年には『クリスタルガイザースパークリングレモン』を発売(2006年には全国展開)した。輸入発売元が大塚食品となって以降も、2011年には『クリスタルガイザー650ml』をコンビニエンスストアで発売し、そして2014年には『クリスタルガイザー700mlペットボトル』の発売を開始。5年前後の間隔で相次いで新商品を投入してきた。
販売数量も増加した。年間ベースで、2006年には1,000万ケースを突破(『クリスタルガイザースパークリングレモン』を合わせると1,200万ケースを突破)、2007年には1,380万ケースを記録した。サントリー、キリン、日本コカコーラ、ハウス食品など先行する大手に食い込み、着実にミネラルウォーター市場の牽引役を果たしてきた。
ミネラルウォーターの国内生産・輸入の総数量を見ると、1990年は17万5,348キロリットルだったが、2016年は352万2,928キロリットル。約20倍に膨れ上がった巨大マーケットである(日本ミネラルウォーター協会)。成長の一途をたどるそのマーケットのなかで、ミネラルウォーターは味による差別化のむずかしさを克服し、スーパーなどで特売の対象になりやすいことからくる価格競争の波を乗り越えていくことが求められた。
今日、ミネラルウォーターの銘柄数は国産で800銘柄と推定され、輸入品を含めると1,000銘柄が流通しているといわれる。そのほか、水を電解処理したアルカリイオン水、海洋深層水を利用した飲料も流通している(日本ミネラルウォーター協会)。そのなかでしのぎを削っていかなければならない。
大塚ベバレジ、大塚食品では、その差別化をまず容器開発に求めたようだ。それも、かつて1980年代初期のビールの“容器戦争”のようなものではなく、環境とリサイクルに配慮した容器の開発である。大塚食品のウェブページにある「クリスタルガイザー、環境への配慮」を参考に、その対応を見てみよう。
『クリスタルガイザー』では、ペットボトルは重さ12.5グラムの軽量ボトルを使用。この対応により、容器の原料であるペット樹脂の使用量やリサイクル量を節減できるとしている。また、ラベルも従来の2枚の紙ラベルからリサイクルしやすい1枚のPPラベルに変更している。
さらに、キャップにもこだわった。日本で流通する平均的なキャップの重さは3グラムだが、『クリスタルガイザー』のキャップはその3分の1の1グラムである。
配送・輸送面での環境への取り組みでは、通常の木製パレットではなく、独自に開発したプラスチックパレットを採用し、リサイクルするしくみを構築している。また、輸入時の海上輸送では1か所に集中させず、人口密集地に近い12か所の港に分散して直送することで、日本国内での陸上運送を抑えたシステムをとっている。
これら製造や輸送に関する施策をトータルして、CO2の排出量の削減、環境負荷の軽減につながるとしている。
『水』商品は、味の面での差別化はむずかしい。
ミネラルウォーター類の品質表示ガイドライン(農林水産省)によると、
1.特定の水源から採水された地下水を原水とし、沈殿、濾過、加熱殺菌以外の物理的・化学的処理を行わないものは、「ナチュラルウォーター」
2.ナチュラルウォーターのうち鉱化された地下水(地表から浸透し、地下を移動中又は地下に滞留中に地層中の無機塩類が溶解した地下水(天然の二酸化炭素が溶解し、発泡性を有する地下水を含む)を原水としたものは「ナチュラルミネラルウォーター」
3.ナチュラルミネラルウォーターを原水とし、品質を安定させる目的等のためにミネラルの調整、曝気、複数の水源から採水したナチュラルミネラルウォーターの混合等が行われているものは、「ミネラルウォーター」
4.ナチュラルウォーター、ナチュラルミネラルウォーターおよびミネラルウォーター以外のものは、「飲用水」または「ボトルドウォーター」
と厳密に規定されており、思い切った冒険がしづらい商品である。
そのため、各社とも、ミネラルウォーターを活かしたメニュー提案、災害時の備蓄用商品の提案なども積極的に進めている。ミネラルウォーター各社、さらに容器メーカーなど周辺産業もこぞって、いわば目立つことのない工夫に邁進しているのが実情だ。
文:M&A Online編集部