日本企業の海外M&A、回復傾向へ|1~9月で前年にほぼ並ぶ

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8月、オリンパスは祖業の顕微鏡など科学事業を米投資ファンドに4276億円で買収すると発表

日本企業の海外M&A(適時開示ベース)が復調に向かいつつある。海外M&Aは月間21件と今年最多となった8月に続き、9月も17件と今年2番目となった。この結果、1~9月累計は118件と前年の121件とほぼ並ぶ水準まで回復した。1~6月の上期段階では72件と前年を15件下回っていた。

上期はウクライナ危機による地政学リスクの高まり、急速な円安進行などで日本企業の海外M&A投資に急ブレーキがかかる形だった。

アウトバウンドが勢いづく

上場企業の適時開示情報のうち経営権の移転を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Online編集部が集計した。

1~9月のM&A件数は国内、海外合わせて前年比37件増の693件。2008年のリーマン・ショック後の年間最多(877件)を記録した2021年を超えるハイペースで推移している。

内訳をみると、日本企業同士の国内M&Aが前年比40件増の575件と高水準を維持しているのに対し、国境をまたぐ海外M&Aは同3件減の118件と横ばい圏にある。

海外M&Aでは夏場以降、日本企業が買い手となるアウトバウンド取引が勢いづき、件数を押し上げた。1~6月はアウトバウンド取引が38件、外国企業が買い手となるインバウンド取引が34件と両者が僅差で並んだ。これに対して1~9月はアウトバウンド69件、インバウンド49件と差が20件まで開いた。

コロナを境に増えるインバウンド

海外M&Aにおいては過去、日本企業による買収が圧倒的に優勢だったが、1~6月は形勢が逆転しかねない状況に陥った。今年に入り、ロシアのウクライナ侵攻、記録的な円安進行などが続き、日本企業の海外買収が減少する一方、日本企業による海外子会社・事業を中心とする売却の動きが活発に推移した。

海外M&Aはコロナ禍初年の2020年に大きく落ち込み、昨年来、回復途上にある。コロナ禍を境に、日本企業の間で中核事業と非中核事業を選別する動きが加速したのに伴い、外国企業が買い手となるインバウンドのウエートが次第に増している。

コロナ前までは海外M&Aのうち、アウトバウンドの件数が70%以上を占めていたが、コロナ後の2020年は67%、21年は58%、22年もここまで58%と、インバウンドとの開きが縮まっている。

◎2022年1~9月:主なアウトバウンド型M&A(金額上位)

買い手 内容 金額 発表
1 ソニーグループ 米国ゲーム開発会社バンジーを買収 5140億円 2月
2 横浜ゴム スウェーデンの農機タイヤメーカー、トレルボルグを買収 2672億円 3月
3 日本製鉄 タイの電炉メーカー大手のGスチールとGJスチールを買収 880億円 1月
4 第一生命ホールディングス ニュージーランド生保大手のパートナーズ・グループを買収 856億円 8月
5 ニコン ドイツの3Ⅾプリンター大手、SLMソリューションズ・グループを買収 840億円 9月


◎2022年1~9月:主なインバウンド型M&A(金額上位)

買い手 内容 金額 発表
1 米ベインキャピタル 日立物流をTOBで非公開化 4442億円 4月
2 米ベインキャピタル オリンパスから祖業の顕微鏡など科学事業を買収 4276億円 8月

3

米KKR 不動産運用の三菱商事・ユービーエス・リアルティ(東京都千代田区)を買収 1157億円 3月
4 米キヤリア 東芝の空調子会社、東芝キヤリア(川崎市)を買収 1000億円 2月
5 香港PGA エイチ・アイ・エスから大型リゾート施設「ハウステンボス」(長崎県佐世保市)を買収 620億円 8月

文:M&A Online編集部

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