公認会計士資格の「誤表記」は「認識不足」で済む問題なのか?

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日本会計士協会も注目視している(東京・市ヶ谷)

無資格者を公認会計士として有報に記載していた

上場会社を担当している135事務所が自主点検

2021年7月以降に複数の大手監査法人などで発覚した公認会計士の「誤表記」を受け、日本公認会計士協会は12月26日付で、上場会社監査を担当する135事務所の自己点検と報告結果などを公表した。故意の事例は確認されていないが、無資格の本人が誤りを認識していたケースもあり、業界の内外から「本当に単なる過失だったのか」との指摘まで出ている。

一連の問題の発端となったのは昨年7月、監査法人トーマツが作成した監査関係の書類で、公認会計士の資格を取っていない監査補助者の職員29人が「公認会計士」と表記していた事実が発覚したことだった。同法人は過去5年分にわたる顧客企業数社の有価証券報告書でも、同様の過ちを繰り返していた。

18事務所で「誤表記」、本人が認識していた事例も

その後、複数の大手監査法人が同様の過失があったことを公表したのを受け、日本公認会計士協会は全容解明の調査に乗り出す事態に発展。最終的にEY新日本監査法人やあずさ監査法人を含む18事務所が有価証券報告書などの法定書類のほか、被監査会社への提出資料などで誤表記をしていたことが分かり、公認会計士ではない職員自身が誤記載を認識していながら修正されなかったケースまであった。

また、2事務所では無資格者が自身の名刺などで公認会計士と名乗っていたことも判明したが、協会側は「名刺発注用データ作成時に資格部分を間違えて発注した」などと発生状況を分析。一連の誤表記の原因については「公認会計士の名称を使用することの重要性の意識の欠如」「資格情報を確かめる必要があることの周知不足と確認漏れ」などを挙げた。

事務所の誰もが見逃していたという不可解

ただ、誤表記の発生状況や原因はどうであれ、上席者を含めて事務所の誰もがそろって見逃すことなどあり得るのかという疑問は多くの人が抱くはずだ。

企業の会計や有価証券報告書などの品質を厳格に保証する立場の監査法人が「認識不足」「確認漏れ」といった単純な理由で重大な過ちに気付けなかったというなら、あまりにお粗末と言わざるを得ない。

さらに、ここで考えておきたいのは、同じ士業でも弁護士の資格を持たない者が弁護士を名乗れば、大問題に発展しかねないということだ。

非弁行為を含め、弁護士であることを騙(かた)る言動は他人の法律生活上の利益を害し、法秩序を乱しかねない。そのため、法曹界には身分を偽って人を信用させてはならないという行為規範の順守が強く求められている。

一方、誤表記が発覚した監査法人からは「企業の有報など監査の有効性に影響はない」という説明も聞かれる。要するに、「最終的には顧客企業の監査責任者がチェックしているので問題ない」ということかもしれないが、報告書などの開示規範さえ守られていれば誤表記が「過失」で済まされるということにはならないはずだ。

「注意喚起」で済むのか?

協会側は誤表記を「公認会計士制度の根幹に関わる」と問題視しており、発生の状況や原因に応じて個人・法人に対する懲戒処分の検討を辞さない構えも見せている。一方、再発防止に向けての対応を表した資料では、監査事務所への「注意喚起」「適宜フォロー」など曖昧さが残るソフトな表現も目につく。

非財務情報も含めた上場企業の開示内容は増加の一途で、財務諸表の信頼性を担保する監査法人の役割はますます高まっている。そうした責務を十分に果たすためにも、誤表記を「偶発的なミス」で片付けるべきではないのは明らかだ。業界を挙げて真剣に自浄能力を発揮し、根本的な原因究明と業務改善に全力を尽くすべきだろう。

文:M&A Online編集部

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