エルサルバドルに続け!途上国にビットコイン「採掘ブーム」到来

alt
「安い電力料金」がビットコイン採掘国の条件

中米のエルサルバドルで、暗号資産(仮想通貨)の「ビットコイン」が米ドルと並ぶ法定通貨となった。注目すべきはビットコインの流通が公的に認められたことよりも、エルサルバドルが国家事業としてビットコインの「採掘」に乗り出すことだろう。

電力が安い国で「採掘ブーム」が

ビットコインは、全ての取引をネット上のデジタル取引台帳に追記する仕組み。この追記作業のための計算処理を実行した者には、見返りとしてビットコインが付与される。この一連の作業を「採掘」と呼ぶ。要はビットコイン取引処理を自前のコンピューターで代行して手数料としてビットコインを受け取るわけだ。

当初は個人の趣味レベルで採掘は可能だったが、ビットコインの取引高が増加するに従って採掘難易度(ディフィカルティー)が上昇。現在は「マイニング機器」と呼ばれる高性能コンピューターを大量に用意して計算処理に当たらなければ利益が出ない。

しかも、こうした高性能のマイニング機器は大量の電力を消費する。ビットコイン取引の電力消費量は年間142.59テラワットアワー(TWh)と、ノルウェー1国の年間消費量(124TWh)を上回るという。

あまりの「電気喰い」に電力不足を引き起こすこともあり、イランは夏の電力需要増に備えるため2021年5月から9月まで仮想通貨の採掘を禁止。6月には中国雲南省がビットコインの採掘に規制をかけると表明した。

採掘には安価な電力だけでなく、高性能のマイニング機器も必要となる。ところが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックで半導体が品薄となり、マイニング機器も出回らなくなった。

そのため旧式のマイニング機器のファームウエアをアップデートすることで電力消費量を削減し、利益率を20%向上する「アンダークロック」と呼ばれる手法が注目されている。安価な旧式マイニング機器であれば、新興国や途上国でも大量調達しやすい。

大量の電力を消費するマイニング機器(ゼロフィールド広報資料より、本文と関係ありません)

ビットコイン相場が上昇すれば、さらなる参入も

旧式マイニング機器は処理能力が落ちるため、1キロワット時(KWh)当たり0.03ドル(3.3円)という格安の電気料金*であっても、24時間稼働して得られる利益は0.5ドル(55円)程度という。
*日本の電力料金は1KWh当たり0.264ドル(29円)

ただ「塵も積もれば山となる」で、旧式でも大量のマイニング機器を稼働させればまとまった額の収益になる。ましてやエルサルバドルのようにめぼしい産業がない新興国や途上国が、新たな外貨獲得手段として期待するのも無理はない。

実際、ビットコインの採掘でシェアを伸ばしているのはロシアやイランのようにエネルギーが自給でき、安価な電力を供給できる国だ。エルサルバドルは火山地熱発電所の自給可能な電力で採掘をする方針だ。

ビットコインは採掘競争が激しくなるとディフィカルティーが上昇する仕組み。世界最大のビットコイン採掘国の中国が政府による採掘規制で本格的な「減産」に入れば、競争が緩和するとの見方もある。これが参入が相次ぐきっかけになったのかもしれない。

これからは電力料金の安い途上国で、ビットコインの採掘ラッシュが始まるだろう。世界のエネルギー価格を調査する Global Petrol Prices.com によると、2021年6月時点で1KWh当たり0.03ドル以下の電力料金を実現している国は、クウェート、ウズベキスタン、オマーン、イラク、ブータンなど少なくとも15カ国ある。

電力料金が安くても大量の採掘が可能なほどの電力を供給できるのか、中古価格が高騰し始めている旧式マイニング機器を大量調達できるのかといった課題も。すべての国が採掘に乗り出すわけではないだろうが、ビットコイン相場が上昇局面になれば参入国が増えるのは間違いなさそうだ。

文:M&A Online編集部