アリババが香港市場に上場した「理由」

最後に2019年の年忘れ放言として、ひとつアイデアを述べたい。妄想だと思ってご笑覧いただきたい。
デュアルクラスは確かに起業家の横暴を許しかねないスキームだが、筆者はきちんと制度設計すればコーポレートガバナンスとイノベーションのバランスを、より精緻に設計し得ると考えている。例えば「サンセット条項」という仕組みだ。

これはデュアルクラスに有効期限を設けるやり方で、デュアルクラスが許容された後に議論となる最大の条項の一つ。M&Aや創業者の死亡、粉飾会計などの不正発覚などをトリガーとしてデュアルクラス構造を解消させるような仕組みで、海外事例を見ても十分設計が可能である。(参考:「種類株式ハンドブック」(商事法務 西村あさひ法律事務所 太田洋 松尾拓也編著)

こうした明朗なデュアルクラスの仕組みを法整備して、アジアのユニコーン企業が日本市場でIPOするよう呼び込んではどうか。実は、米国はじめデュアルクラス構造での上場を容認している証券取引所の意図は「国際市場間競争への対応」なのだ。

引く手あまたなユニコーン企業のようにデュアルクラス構造でも上場審査に通る企業は、自社にとって望ましい市場を選択して上場する。例えばアリババが香港市場ではなくニューヨーク市場で上場したのは、香港が当時デュアルクラスを認めていなかったからだ。

最近、アリババは香港市場に上場して1兆6000億円の資金を手に入れた。香港市場がデュアルクラスを認める変更をしたことが、一つのきっかけだ。このように、より有望なユニコーン企業を上場させて証券取引所間での競争に勝ち残るため、世界の証券取引所はデュアルクラス構造を許容していく方向にある。

先に述べたように、残念ながら日本では、投資家がデュアルクラスを「ごもっともです」受け入れてくれるほど前途有望な企業は、まだまだ少なそうだ。その可能性があるとしたら、今のところはディープラーニング(深層学習)の研究開発を手がけるスタートアップのPreferred Networks(プリファード・ネットワークス)くらいだろうか。