【クックパッド】海外レシピ・サービス市場もM&Aで猛攻

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主婦層向けサービスの買収を強化

 クックパッド<2193>は、料理レシピの投稿・検索サイトとして1997年に設立された。設立から15年近くは創業事業の基盤構築に努め、日本市場での地位が確立されてからM&Aを積極的に活用して海外展開と新規事業の創出に取り組むようになった。

■クックパッドの行った主なM&A

年月 沿革と主なM&A
1997.10 クックパッド設立
2009.7 東京証券取引所市場マザーズに株式を上場、14億円を調達
2011.12 東京証券取引所市場第一部に株式を上場、20億円を調達
2012.11 スマートフォン向け家計簿サービスを提供するZaimに4200万円を出資
2013.10 プライベート・レッスンの予約サイトを運営するコーチ・ユナイテッド(売上高1億円)の全株式を10億円で買収し、子会社化
2014.1 アメリカのレシピ・サービス運営会社ALLTHECOOKSの全株式、子会社を通じて5億1200万円で買収し、孫会社化
2014.1 スペインに子会社を設立し、スペインのレシピ・サービスMis Recetas(売上高1500万円)を11億1500万円で事業譲受け
2014.5 インドネシアのレシピ・サービスを運営するDAPUR MASAKの株式を6100万円で取得し、完全子会社化
2014.8 衣料、キッチン用品および雑貨のオンラインショップを運営するセレクチュアー(売上高14億)の株式を5億5000万円で買収
2014.11 子会社を設立し、アイフリークモバイルの知育アプリの開発事業(売上高1300万円)を8000万円で譲受け
2014.11 公募増資により86億円を調達
2015.1 レバノンに孫会社を設立し、アラビア語のレシピ・サービスを運営する Netsilaの全株式を13億9300万円で買収
2015.7 みんなのウェディング(売上高15億円)の株式を28億円で買収

高額な買収金額でも収益化に自信あり

 クックパッドのM&Aの実績を見ていくと、買収先の傾向としては二つのパターンがある。一つ目は、既存事業の海外展開である。アメリカのレシピ・サービスの買収を皮切りに、英語圏、スペイン語圏、インドネシア語圏、アラビア語圏のレシピ・サービスを次々と買収している。二つ目は、主婦層向けのサービス事業者の買収であり、主婦層向け商品のECサイト、知育アプリ開発会社などを買収している。前者は、将来への投資という側面がより強いように見受けられ、後者は、既存サービスのメインターゲット層へのサービスラインアップの強化である。

 買収の特徴は、売り上げが伸び悩んでいる企業に対しての高額な買収資金投下である。海外レシピ・サイトの多くが収益化に苦しんでいる中で、こうした動きは一見無謀にも見える。だが、クックパッドは自社の実績から収益化が可能と判断し、たとえ高額であったとしても買収に踏み切っている。総資産に占めるのれんの割合は2015年6月期末時点では24%であり、14年12月期末の15%からは大幅に増加している。バランスシートからも、同社が積極的な攻めに転じていることが見て取れる。

 また、ほかの事業についても、対象会社が持っている会員ネットワークに自社のノウハウを加えることにより、成長にドライブを掛けることができると判断し、投資を行っている印象がある。

 例えば、13年10月に買収しているコーチ・ユナイテッドは、語学・楽器・デザインなどのプライベート・レッスンを提供するサイトを運営している。同社のサービスは、中流クラス以上の個人をターゲットにしており、クックパッドに比べて個人へのリーチが深く、有料サービス利用度の高い顧客を抱えている点に強みがある。クックパッドは、ターゲット層が広いもののリレーションが浅くなりがちとなるため、コーチ・ユナイテッドの個人へのリーチの深さと有料サービス利用度の高さを生かして、今後、インターネット化が加速すると推測されるハウスキーピングなど、各種地域サービスへの横展開を目指しているのではないかと考えられる。

 こうした個人へのリーチを意識する傾向は、近年のM&Aマーケット全体においてトレンドとなっており、各種プラットフォーム事業への投資が活発化している。クックパッドは、基本利用料無料というフリーミアム・モデル(基本的なサービス料を無料で提供するビジネスモデル)により個人顧客を取り込む典型例だが、個人顧客の数を増やすには限界がある。今後はいかに課金層を増やし、その課金層へのサービスラインアップを充実させるかが一つの大きな経営課題になると考えられる。その点、コーチ・ユナイテッドの買収は、課金層の増加とラインアップの強化という両面性を持ったM&Aであり、横展開を行っていく上で重要な位置付けにあると思われる。

営業利益率40%のビジネスモデル

 クックパッドの収益源は、プレミアム会員(クックパッドのすべての機能が利用可能、月額税抜280円)からの会員料、サイト内の広告料がメインとなっており、営業利益率40%もの数字を上げている。創業から8年間、05年4月期までは赤字経営であったが、事業をじっくり育ててきたと言えるだろう。M&Aにおいても、海外事業の黒字化は買収から5年をめどにしていることもあり、長期的な視野に立ってM&Aを行っている。

 上記グラフのように、一度市場を占有し、売り上げを確保できるようになれば、急速に収益化に成功してきたこれまでの経験が、買収を判断する材料になっている。

 一方で、15年7月には、クックパッドの買収案件としては過去最大の投資額28億円を投じて、みんなのウェディングの株式26.88%をTOBで取得し、支配力基準により子会社化した(クックパッドの穐田代表執行役がみんなのウェディングの株式13.13%を保有している)。みんなのウェディングは、結婚に関する口コミサイトなどを運営する企業で、直近期において、売上高が年率50%近くの成長を果たしている。みんなのウェディングは前述したコーチ・ユナイテッドとは対照的に、収益モデルとしてはフリーミアム・モデルを軸とし、主たる収益は広告収入によるものである。その点では、買収の主目的はサービスラインアップの強化と、クックパッドとの連動による相互送客を行うことでPV(ページビュー)向上にあると推測される。

 この買収が特徴的なのは、既に強固な個人顧客基盤を構築し、収益化が果たされているところに高額な買収資金を投入した点にある。クックパッドが、いよいよインターネット上の生活インフラ確立のために本腰を入れ始めたことがうかがえ、今後さらなる大型案件への投資が期待される。

潤沢な現預金と共に 長期的な戦略的M&Aを行う

 また一方で、クックパッドの財務面に着目すると、一定水準の流動性を保ちつつ投資を行っていることが分かる。15年6月時点では現預金が資産に占める割合は38%と、高い水準にある。

(単位:百万円)

 これに加えて、14年4月期までは買収に掛かる資金調達も自社のキャッシュフローの範囲で実質的には賄うことができている点からも、財務状況とのバランスが非常によい。

 さらに14年11月には、M&Aと新規事業立ち上げ資金に充当するために最高100億円超の公募増資を行うと発表した(最終的には時価総額1400億円に対して86億円の増資を行った)。増資による資金の投資対象の第1号案件がNetsila(13億円)であり、第2号案件がみんなのウェディング(28億円)であった。

 増資により調達した資金(86億円)と2件のM&Aに投じた資金(41億円)を比べると、まだ投資余力がある。同社の手元資金が15年6月末時点で87億円に達することから見ても、今後も積極的な買収を続けていくことが予想される。

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部