いま、「ホントに用心しないといけない国」はどこだ?

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現在、161の国の信用リスクを開示している

世界中の約200カ国で信用取引保険を展開する仏コファスグループが4半期ごとにカントリーリスク・マップを発表している。すでに20年近い実績を持つ。その狙いや活用法について、コファスジャパン信用保険会社(東京都港区)のシニア・バイス・プレジデントで与信業務部長の田中豊氏、バイス・プレジデントのジョナタン・ペレズ氏(マーケティング&コミュニケーションズ部)に聞いた。

まず、トップ画像がコファスグループが4半期ごとに発表するカントリーリスク・マップだ。一般のビジネスマンに広く開示され、A1からEまでリスクの程度を8段階で国別に表示し、それぞれの国のリスク内容についてコメントしている。

3つのアングルから信用情報を精査

カントリーリスクというと、多くの人は外務省が発表する「海外安全ホームページ」やその情報をもとにしたニュースなどで知る紛争や気候災害、風土病・感染症など海外渡航時に確認するリスク情報が一般的。だが、同社のカントリーリスク・マップは趣が異なる。

決算書を入手しやすいかどうか、また支払い遅延情報などを分析

「当社が公表しているカントリーリスク・マップは、企業の信用リスク情報に基づいたもので、その国の企業から決算書を入手しやすいかどうか、また当社で保険契約している顧客からの相手企業の支払い遅延情報など、主に3つの柱に基づいています」と田中豊氏は語る。

すなわち、①当該国の経済、政治、財政上の見通し(地政学的にみた弱点、経済面での脆弱性、外貨の流動性リスク、対外債務超過、国家財政の脆弱性、金融部門の健全性)、②事業環境、③企業の決済動向の3点である。

内紛や暴動、風土病、政情不安など国の一般的なリスク情報を背景にして、上記のようによりビジネス・取引に関連する情報を精査して表現したマップということになる。

同社は2000年から、この格付情報に基づいたカントリーリスク・マップを開示してきた。現在は161カ国について8つに色分けし、また、13のセクター(業界)に分けて、詳細なリスク情報をまとめている。

「当社はもともとフランスの国営企業で、その信用保険部門が独立して事業を営むようになりました。国情分析は国が行うとしても、そのリスクに対する取引信用情報の把握と保険の付保までは国で行うのはむずかしい。その部門を当社が充実・発展させてきたのです」(ジョナタン・ペレズ氏)

先進国なら決算書が入手しやすいというわけではない!?

 同社のカントリーリスク・マップの基準の一つ、決算書の入手のしやすさでも、実は国によって相当な差がある。

「日本は企業の財務状況を把握しやすい国の1つです。米国やシンガポール、それにオーストラリアなどは先進国といえますが、実は決算書が入手しにくい場合もあります。それは、法律や会計制度の違いというより、むしろ文化的な違いかもしれませんね」(田中氏)

取引文化の違いという面の1つに、日本は東京商工リサーチや帝国データバンクなど信用調査機関の充実が挙げられる。非上場会社、中小企業でも自社の円滑な取引を実現するため、決算がまとまった段階で、それら信用調査機関に登録してある決算情報を更新するケースが多い。また、新規取引に際して発注企業が与信調査を行うため、対象企業に決算書を提出してもらうことも一般的だ。

だが、海外との取引となると、日本と同じようにはいかない。先進国であっても、信用情報を得にくい国と企業があるのが現状である。

「この国はアブナイ!」などと即断するつもりはないが、マップをよく見ると、たとえばヨーロッパ諸国でも橙色で示されている国があり、また、信用取引リスクが高まっている国がある。それらの国の企業との取引においては、リスク要因を自社独自に分析する必要があるかもしれない。

また、特に経年推移で見れば、かつてはBRICsと呼ばれ、2000年代以降著しい経済発展を遂げてきたブラジル、ロシア、インド、中国も、今日のリスク情報の詳細は、同じ「B」ランクに属しているといっても国それぞれに異なる。また、日本企業との取引も増え、急成長するアジア諸国でも、その信用情報の差は大きいことが歴然と見てとれる。

カントリーリスク・マップの海外M&Aでの使い勝手は?

 では、最近は一般的となってきた海外M&Aの現場で、このカントリーリスク・マップは生かせるのか。

「カントリーリスク・マップは、いわば継続取引を前提とした信用情報などの基準に基づいて作成しています。そのため、継続取引ではなく『投資』と判断できる海外M&Aの際に、直接的に生かせるものではありません。しかし、M&Aのあと、たとえば買収企業ではその国の企業と継続取引を行うことになる。その企業が所在する国の継続取引を前提としたリスク判断に活用するケースは想定できます」(田中氏)

M&Aを行う際に直接的な判断材料とはしにくいが、M&A後において、シナジーを発揮できるような企業活動を継続して進めていく際には判断材料の1つとなり得る。

今後、より有益な信用リスク情報を提示するには、継続的なモニタリングが大事

「実際、当社に新規に保険契約いただいた顧客にそのきっかけを聞くと、M&Aによって海外取引が頻繁に発生し、対象国の企業の信用リスクに対して担保する必要性を感じて契約した、というケースもあります」(ペレズ氏)。

海外に限らず、取引信用保険は「倒産企業数が増えているから急いで入っておいたほうがよいという性質のものではなく、安定した取引を続けているから入らなくてもかまわないといった性質のものでもない」(田中氏)。

まったくリスクのない状態はあり得ない以上、常に取引のリスク分析を行い、想定されるリスクをヘッジするために行うものだ。カントリーリスク・マップがリスクの分析と評価に役立つものとするには、「継続的なモニタリングが必要です」(ペレズ氏)という。

M&Aにかかわる人にとって、こうした継続したモニタリングを通したリスクの詳細分析は、今後ますます重要になってくるだろう。

取材・文:M&A Online編集部