FTX破綻の余波 米投資家が大谷翔平選手、大坂なおみ選手らを提訴

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大谷選手のほかNBAやNFLのスター選手も含まれている(Photo by USA TODAY Sports)

暗号資産(仮想通貨)取引所大手の米FTXトレーディングが11月11日、経営破綻した。負債総額は最大7兆円に上る見通しとなった中、米投資家が大リーグの大谷翔平選手や女子テニスの大坂なおみ選手らを16日までに提訴。FTXを宣伝した責任があるとして損害賠償を求めており、業界で過去最大級の破綻劇は余波を広げ続けている。

日本法人に業務停止と資産保全の行政処分

FTXの破綻に先立っては11月10日、関東財務局が日本法人のFTX Japanに12月9日まで新たな顧客財産の受け入れ業務を停止するよう命令。親会社の米FTXに関する信用不安の報道を受け、日本法人の資産を国外の関連会社などに流出させないことも求めた。

FTX Japanは11月14日、ビットコインやイーサリアムなど14銘柄の暗号資産のほか、円と米ドルの法定通貨も顧客からの預かり資産を上回る額を管理していると公表。9月末の純資産はおよそ100億円で、11月10日時点の現預金は約196億円としている。

一方、FTXは創業者のサム・バンクマン・フリード元最高経営責任者(CEO)が自身の保有する投資会社に100億ドル(約1兆4,000億円)もの顧客資産を移し、うち10~20億ドルが所在不明と報じられている。

FTXの破綻で暗号資産市場の縮小と相場の低下は不可避で、日本を含めて100万人を超える顧客に現金や仮想通貨が返還されるかが焦点となる。

見通しが立たない出金再開

訴訟で名前が挙がった大谷選手は2021年11月、大坂選手は2022年3月にFTXの”広告塔”である「グローバルアンバサダー」に就任したことから、投資家の怒りの矛先が向けられた格好だ。被告にはフリード元CEOのほか、プロバスケットボール・NBA、プロアメリカンフットボール・NFLのスター選手も含まれている。

米フロリダ州の連邦地裁で起こされた損害賠償の請求額は明らかでないが、原告は連邦地裁に「FTXの口座を持つ米国の投資家が110億ドル(約1兆5,400億円)の損害を被った」とする訴状を提出し、集団訴訟として取り扱うよう求めたと伝えられている。

大谷選手は2022年夏から関東エリアで放送されたFTX Japan のテレビCMで、自身の映像が使われている。大坂選手はFTXのSNS公式アカウントが公開した動画広告に登場しており、損害賠償訴訟の行方は日本でも注目されそうだ。

FTXが米連邦破産法の適用を申請している状況下で、FTX Japanは預かり資産の出金・出庫を停止したまま。日本法人は11月16日に金融庁に業務改善計画を提出したが、内容は明かされていない。出金・出庫の再開についても「顧問弁護士と協議中」と説明するにとどまっており、利用者の不安は日増しに募っている。

日銀・黒田総裁は規制強化の必要性に言及

暗号資産業界は、中央銀行の後ろ盾がない自社発行のトークンを担保に多額の融資を引き出す「錬金術」のような経営手法や財務情報などの開示不足などがたびたび指摘されてきた。取引を悪用したマネーロンダリングやインターネット上の不正アクセスにより顧客資産が流出するリスクも問題になっている。

世界有数の取引所だったFTXの破綻による連鎖倒産も危惧される中、日本銀行の黒田東彦総裁は11月14日の記者会見で「暗号資産にかかるリスクはG7でも指摘されている。規制面での対応について、早急に作業を進めていく必要がある」との認識を示した。

〈FTXトレーディング〉2019年に香港で創業し、2021年にバハマへ本社を移転。2022年2月時点の企業評価額は約4兆円に上った。日本進出は既存の暗号資産交換業者の買収を足掛かりとし、2022年4月に社名をFTX Japanに変更。業界最安級の手数料設定と、円安下でも暗号資産の購買力を保てる米ドル建ての資産管理が可能な点で人気を博した。

文:M&A Online編集部