巨大M&Aは起こらない?ー2018年の自動車業界

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自動車業界は大再編の環境にない

 日本経済をけん引する自動車産業。2018年に自動車業界の大再編は起こるのだろうか? 結論を言おう。その可能性は極めて低い。最大の理由は世界の自動車市場が堅調なことだ。

 2017年1-11月累計販売台数をみると、世界最大の中国市場は前年同期比3.6%増の2584万5000台と成長を続けている。世界二位の米国市場は1562万2461台で同1.5%減の微減にとどまっているうえに、比較的利益率の高い小型トラックは同4.5%増と成長を持続している。欧州もブレグジット(EU離脱)で景気の不透明感が増している英国が同5.0%減の238万8144台となったものの、ドイツが同3.0%増の318万7312台、フランスが同5.3%増の191万7383台、イタリアが同8.7%増の184万8919台と好調だ。日本は同5.8%増の483万9912台と5%を超える成長になった。

 自動車メーカーの大型M&Aは世界販売や企業業績が低迷した時期に起こる。1997年7月に始まったアジア通貨危機、1998年8月のロシア通貨危機に伴う世界経済の危機を受けて、1998年11月に独ダイムラー・ベンツと米クライスラーが合併してダイムラー・クライスラーが誕生した(2007年に解消)。国内メーカーをみても1996年の米フォード・モーターによるマツダ<7261>(2015年に完全解消)、1999年の仏ルノーによる日産自動車<7201>、2000年のダイムラーによる三菱自動車<7211>(2005年に完全解消)、2016年の日産による三菱自動車への資本提携は、いずれも出資を受ける側の経営危機に起因するものだ。急激な景気悪化や企業不祥事の発覚などによる販売台数の激減がない限り、自動車メーカー同士でのM&Aは起こらないのだ。

とはいえ、無風ではない

 では、2018年の自動車業界でのM&Aは無風なのかといえば、そうでもない。最も動きがありそうなのは次世代環境車(エコカー)の主役と目されている電気自動車(EV)絡みのM&Aだ。その台風の目がトヨタ自動車<7203>、マツダ、デンソー<6902>が3社共同で立ち上げたEV開発会社のEV C.A. Spirit(名古屋市中村区)だ。すでにダイハツ工業<7262>、スバル<7270>、スズキ<7269>などが出資する意向を示している。EVは当面、販売台数が急成長するとは予想されておらず、共同することで参入コストとリスクを引き下げる狙いがある。さらには普及した後の規格競争で優位に立つためにも「寄らば大樹の陰」で、より大きな企業連合に参加しておくのが望ましいとの判断もある。

 EVをめぐっては自動車メーカー同士ではなく、自動車業界と電機業界といった異業種間M&Aも活発になりそうだ。2017年12月にトヨタとパナソニック<6752>EV向けの車載用電池で協業を検討すると発表した。電池は最終的にEVの性能を左右すると言われているうえに、最も価格が高い部品でもある。EVシフトを推進する自動車メーカーによる電池メーカーの囲い込みと同時に、量産効果を狙った電池メーカーによる自動車メーカーの逆囲い込みもありうる。現在主流であるリチウムイオン電池に代わる、短時間充電が可能で高容量な全固体電池技術をめぐる研究開発M&Aも注目されそうだ。EVのような「今日のメシ」につながらない次世代投資型のM&Aは、再編型M&Aとは逆に業界が活況な時に起こる。こちらのタイプのM&Aからは、今年も目が離せない。

文:M&A Online編集部