政府がFAXを全廃できない理由は「セキュリティー問題」のウソ

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河野太郎行政改革担当相が打ち出した霞が関のファクス廃止が、事実上頓挫したことが分かった。ファクス利用が続けば官公庁でのテレワーク移行が進まないとして、2021年6月末で全廃する方針だった。しかし、推進役の内閣官房行政改革推進本部事務局に各省庁から約400件の反論があり、断念せざるを得ないと判断したようだ。

セキュリティー上の理由で「ファクス反対」

反対理由として挙げられたのが、セキュリティー上の理由。メールではハッキングのおそれがあり、セキュリティーを確保するために新たなシステム導入が必要だとの指摘が多かったという。しかし、本当にそうなのだろうか?

そもそもファクスは、セキュリティー面で「安全」とはいえない。ファクス通信はアナログ時代に誕生し、いわゆる「ピーポー音」で画像情報をやりとりする。そのため音声情報を盗聴されれば、文書の内容は完璧に取り出せる。ファクスは古い技術だけにデータは暗号化されておらず、デジタル化された携帯電話の音声通話よりもセキュリティーが低い。

メールなどのハッキングはアクセスログなどの証拠が残るものの、ファクスの盗聴は盗聴器が発見されても誰が取り付けたかを調査しなければならないし、そもそもプリントされた文書を持ち逃げされればお手上げだ。

官公庁や企業といった事業所はもちろんのこと、最近の家庭用ファクスもプリンターやスキャナーなどの機能を併せ持つ複合機となっている。当然、パソコンと常時接続しており、暗号化されていないファクス(固定電話)通信経由でのハッキングも増加している。

レガシー技術のファクスにセキュリティーの思想なし

複合機でファクス機能を動かすプログラムのバグを利用して悪意のあるデータをファクス通信の体裁で送り込んで、複合機・パソコン経由で情報システムに侵入したりアクセス権限を奪ったりできるという。

同じ複合機でもプリンター機能は認証チェック機能を追加して、認証されたユーザーだけが印刷できるというセキュリティー上の「縛り」をかけられる。だが、古い通信規格であるファクスは、常に未承認のまま通信する仕様なのだ。

つまり複合機をファクスのために固定電話回線と接続した時点で、情報セキュリティー上のリスクにさらされる。一昔前の家庭用ファクスのように電話とファクスに特化した機械を利用すれば、ITネットワークへのハッキングを防ぐことは可能だ。しかし、用紙の補充や感熱リボンなどの交換に手間がかかるため、大量のファクスが出力される事業所用としては使い勝手が悪い。

さらにファクスによる連絡は、エラーのリスクも高まる。たとえば職場で管理しているデータをファクスで送ったケースを考えてみよう。受け取った側は手作業で入力することになるが、その際にミスが起こる可能性がある。定型的な情報のやりとりは、データ通信が最も効率がよく、正確だ。

霞が関の官公庁がセキュリティーを理由にファクス全廃に反対しているのは、現在の仕事のやり方を変えたくない官僚の「もっともらしい言い訳」か、もしくは絶望的なまでの「ITリテラシーの欠如」のいずれかということになりそうだ。

文:M&A Online編集部