「第三セクターが市の要請を断るなんて!」と、驚きが広がっている。横浜市は米軍上瀬谷通信施設跡地と相鉄線瀬谷駅付近を結ぶ新交通システムの整備を進めている。市は第三セクターの横浜シーサイドライン(横浜市)に運行事業者となるよう要請した。が、同社の三上章彦社長が「採算の見通しがつかない」として辞退する意向を示したのだ。
同社の三上章彦社長は朝日新聞の取材で「新交通が必要かどうかも含め、再検討が必要ではないか」と市の計画に公然とダメ出しをした。市は2027年3月に開幕する国際園芸博覧会(花博)会場までの足として新交通システム「上瀬谷ライン」(仮称)の開業を目指している。
横浜シーサイドラインの主張はもっともで、同年9月に花博が閉幕した後の跡地利用が固まってない時点で参入を求められても簡単には受けられない。昔なら第三セクターが赤字を垂れ流しても市の予算で補填できただろうが、今は無理。市の顔を立てて参入しても、赤字の責任が運行事業者に押し付けられるのは目に見えている。
花博までに開通させるには、今年度中に国土交通省に許可を申請しなくてはいけない。横浜市は大慌てだが、第三セクターですら受け入れない路線に参入する民間企業が現れる可能性はほとんどないだろう。鉄道ならば自社と接続してシナジー(相乗)効果も期待できるが、専用路線をタイヤ走行する新交通システムでは鉄道との相互乗り入れは不可能だ。
市は横浜シーサイドラインに具体的な再開発プランを提示して懐柔しようとするだろうが、同社が納得するプランを市が提示するのは至難の技だろう。
先の市長選でカジノを含むIR開発が白紙に戻ったことも、同社の判断に影響を与えた可能性がある。花博跡地の再開発もテーマパークなど当たり外れの大きい大型案件にならざるを得ず、「採算性」が次回以降の市長選での争点になりかねない。
「いっそのこと花博跡地にカジノを誘致したらどうだ」と皮肉る声も上がりそうだが、カジノ撤退が市主導の巨大プロジェクトの実現性に疑念を抱かせることになったとしたら思わぬ「副反応」と言えるかもしれない。
文:M&A Online編集部