上場企業によるM&A、相次ぐ「破談」|150億円買収の白紙撤回も

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新日本建設が子会社化を中止した冨士工の本社が入るビル(東京・日本橋人形町)

上場企業が関与するM&A案件(適時開示ベース)の破談がここへきて目立つ。8月から3カ月連続で各1件発生しており、なかには買収金額150億円の大型案件が白紙に戻ったケースも含まれる。いったん合意しながら破談した案件は今年に入って6件を数える。

元東証1部「冨士工」の買収が白紙に

アピリッツは10月14日、オンラインゲーム配信サービスのムーンラビット(東京都渋谷区)の子会社化を中止すると発表した。子会社化を発表したのはちょうどひと月前の9月14日。しかし、両社の経営方針や条件面で最終的に折り合えず、基本合意書を解除したのだ。

アピリッツはオンラインゲーム事業を主力とする。台湾発のゲームタイトルを日本国内に供給しているムーンラビットを傘下に取り込み、自社ゲームタイトルの海外販売や海外ゲームタイトルの国内ライセンス販売などに備える狙いだった。当初は10月1日付で子会社化する予定だったが、9月30日にスケジュールを当面延期すると発表し、最終合意作業の遅れが明らかになっていた。

建設業界では大型の破談劇があった。新日本建設は9月24日、元東証1部上場の建設会社で10月1日付で予定していた冨士工(東京都中央区)の子会社化を中止したと発表した。建設事業の規模拡大や非住宅分野の強化が目的で、150億円を投じて冨士工の全株式を取得することにしていた。ところが、子会社化後の経営方針や営業展開など主要な点で相違が顕在化したとして、8月18日に合意していた株式譲渡契約を解除した。

冨士工は1946年設立で、首都圏を地盤に建築・土木工事を手がけ、とくに建築工事では医療法人や社会福祉法人など非住宅分野の受注に強みを持つ。しかし、バブル崩壊後の1990年代に経営危機が表面化。2001年に民事再生手続きを申請し、総額831億円の負債を抱え、行き詰まり、東証1部上場が廃止となったが、その後、再建を果たした。

100億円超の「買収」中止は異例

100億円を超える大型買収案件の破談は今年初であるのはもちろん、近年でも例がない。2020年のケースでみると、オリンパスによるデジタルカメラ事業の中国企業への売却(約300億円)、キリンホールディングスが計画した豪州子会社の飲料事業の中国企業への売却(約456億円)が白紙になったが、いずれも売却案件だ。

8月には中小企業ホールディングス(旧クレアホールディングス)が感染症検査装置販売のオンサイトスクリーン(東京都港区)の子会社化を中止。契約時(2021年1月)に対象会社による説明義務違反があったことが判明し、債務不履行及び錯誤を理由に契約を解除したという。

今年序盤には1月、AGCとセントラル硝子が2019年12月に基本合意した国内建築用ガラス事業の統合に関する協議中止を発表した。国内市場が縮小する建築用ガラス事業の抜本的な構造改革の必要性で一致していたものの、最終的に見解の隔たりを埋められず、問題が先送りされることになった。

このほか、4月にダスキンは宅配ピザ事業、5月にはエルアイイーエイチが輸入肉・国産肉卸会社の買収をそれぞれ中止した。

こうした上場企業が関与するM&A案件の中止は今年6件。今のところ、前年の9件には届いていない。

文:M&A Online編集部