豪雨で土砂崩れ「盛り土と知らなかった」で責任を回避できるか?

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土地所有者は土石流など土砂災害の責任をどこまで負うのか?(写真はイメージ)

静岡県熱海市の大規模な土石流で、起点となった土地に大量の盛り土があったことが明らかになった。この土地の所有者は「盛り土がされていたとは、今回のことが起きるまで知らなかった」と話しているという。仮に盛り土が土石流の原因と断定されたとしたら、土地所有者は「知らなかった」として責任を回避できるのだろうか。

「知らない」よりも「想定外」が責任の分かれ道

基本的に土砂崩れで被害が発生した場合、土地の所有者が責任を負う。結論としては、所有者が盛り土されていた事実を「知らなかった」としても、それで免責される可能性はほとんどない。

ただ、例外はある。豪雨が想定外の規模ーつまり発生が予見できないほど「異常」なものであった場合だ。新潟地裁長岡支部平成23年12月7日の判決では、総降水量427ミリという記録的な豪雨が崖崩れの原因として損害賠償責任が否定された。

盛り土をした土地を売却した不動産管理会社の関係者が「豪雨はこれまでもあったが崩れなかった」と自社の責任を否定したのも、異常気象による豪雨を原因とした方が訴訟で有利と知っているからだろう。とはいえ、今回の豪雨が想定外ではないと判断された場合、土地所有者は責任を回避できそうにない。

熱海の雨量は「グレーゾーン」

静岡地裁平成4年3月24日の判決では、土砂災害発生時の降雨量が「過去の観測データにおいても数回あることが認められる」としたうえで、「本件事故の被災者の建物が多数所在していたことを考慮すると、本件柵板工土留は山の尾根下沿いの急斜面の土留として通常要すべき安全性を欠いており、瑕疵があったと判断せざるを得ない」と損害賠償責任を認めている。

「想定内の豪雨」であれば、安全対策を施していたとしても土砂崩れが発生した以上、その責任を負うべきだということだ。つまり、損害賠償責任を負うか負わないかは、土石流発生時の「雨量次第」となる可能性が高い。

土石流発生時の降雨量は熱海市網代での48時間雨量が321ミリに達し、7月の1カ月平年降雨量を上回った。これは損害賠償責任が認められた静岡地裁判決の229.5ミリと認められなかった427ミリの中間に当たり、訴訟になった場合は裁判所の判断が注目される。

もっとも、今回の土石流は一般市民にとっても「他人事」とは言えない。2020年3月に土地基本法が改正され、土地保有の意思の有無にかかわらず、相続人が管理責任を負う内容に改定された。

親が持っていた放棄地が雨で土砂崩れを起こし、他人の住宅に被害が発生した場合は相続人が損害賠償責任を負うことになる。死亡事故でも起こそうものなら、親の遺産のおかげで子が全財産を失うことにもなりかねない。土地の所有者や相続人は「知らなかった」では済まないのである。

文:M&A Online編集部