[ビルメンテナンス業のM&A] 国内の大手集約が進行

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ビルメンテナンス業界の動向

売上高は堅調に推移、東京オリンピック需要も期待できるが、都心部を中心に人材不足が深刻化

ビルメンテナンス業界全体の売上高は、引き続き堅調に推移している。オフィス空室率は低水準で推移、賃料は改善傾向にあり、ビルメンテナンス業界にも恩恵をもたらしている。しかしながら、中小のビルメンテナンス企業の経営環境は厳しい。

足元の課題は、人材不足である。東京オリンピックの関連需要拡大により、特に都心部では業界を問わず人材不足が深刻である。労働集約型の業界において、人材不足は業容の縮小や人件費の高騰による利益の圧迫等、経営危機をもたらす。人材確保が難しい中小企業には厳しい環境だ。

事業者が多いのもビルメンテナンス業界の特徴で、価格競争による単価の下落がつきまとう。異業種の参入意欲も継続して旺盛だ。市場全体の売上高が増加しても、中小企業が潤っているとはいえない。

東京オリンピックまでは関連需要に期待できるが、以降の市場にはリスクがある。大幅な市場の縮小があった場合、生き残るのは高付加価値な総合サービスを提供し、海外展開をしている大手企業だけではないだろうか。

ビルメンテナンス業界のM&A動向

M&Aにより国内の大手集約が進行ー総合サービスの提供や海外展開、選択と集中を図る企業も

直近のビルメンテナンス業界のM&Aは、「国内の大手集約」「海外展開」「総合サービスの提供」「選択と集中」に特徴がある。


国内の大手集約型M&A

J・フロントリテイリング傘下の白青舎は、2015年12月にイオン子会社のビルメンテナンス会社であるイオンディライト<9787>TOBを受け入れ、イオングループの傘下に入った。さらなる営業力強化やコスト削減、品質強化、事業開発を図る。今後の成長機会が限定的な市場において、顧客ニーズは多様化・高度化しており、IT等の高度な技術・ノウハウ、業務標準化、コンサルティング営業や品質保証等、知的資本を集約させる必要がある。これらの高度な技術・ノウハウ・人材の獲得には多額の投資が必要だが、業界内で多数を占める中小企業ではこのような対応は困難であり、イオンディライトは業界内で「国内の大手集約」が進行すると考えているようだ。

京都を中心に関西圏に強みを持つ年商21億円の協栄ビル管理は、2016年8月、同業のハリマビステム<9780>に株式を売却、傘下に入った。「国内の大手集約」の典型例である。独自経営は魅惑的だが、安定的な経営基盤の確立、業務の効率化、新規営業での営業力の強化という経営目的の達成を優先させる将来を見据えた英断である。

集中と選択型M&A

またイオンディライトは、2012年にBPO事業を展開するジェネラル・サービシーズを買収し「総合サービスの提供」に磨きをかけ、翌年にも中国企業の武漢小竹物業管理を買収し、「海外展開」を加速させている。一方で、2016年1月には本業ではないマンション管理事業を穴吹ハウジングサービスに譲渡した。大手だからといって買収に限らず、事業を売却し、「選択と集中」を行う賢いM&A戦略をとっている。

海外進出型M&A

ビル管理大手の日本ハウズイング<4781>は、2016年3月にベトナムの最大手清掃企業を買収、さらに2016年12月にシンガポールの建築設備のエンジニアリング及びファシリティマネジメント企業の買収を発表するなど、アジア市場の開拓に積極的である。業界で生き残るためには、「海外展開」を考えなければならない。

M&A情報誌「SMART 2018年夏号」の記事を基に再構成しております