債務超過で1円譲渡されたゲーム「神の手」とは何だったのか?

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秋元康氏プロデュース、AKB48・乃木坂46など有名アイドルの出演、課金率100%をうたい、年商1200億円と豪語したスマートフォンゲーム『神の手』の企画・運営を行っていたブランジスタゲームが、ネクシィーズに1円で譲渡されました。

ブランジスタゲームは2期連続の債務超過で、2018年9月期で債務超過額は10億4500万円にも上っていました。売上高は3億6000万円、営業損失は7億3300万円。派手にぶち上げた神の手は、どこでつまづいたのでしょうか?

斬新な3Dクレーンゲーム
斬新な3Dクレーンゲーム


課金と広告、2つの収益柱で稼ぐ夢のビジネスモデル

ブランジスタゲーム関係図
ブランジスタゲーム関係図

ブランジスタゲームは、『旅色』などの電子雑誌を運営するブランジスタ<6176>の子会社です。

譲渡先のネクシィーズは、ブランジスタの親会社ネクシィーズグループ<4346>の100%子会社。今回の譲渡は、ネクシィーズグループ傘下のブランジスタから、同じく傘下のネクシィーズに備忘価額1円で引き渡された形。神の手を非上場のネクシィーズ下に置いて、再建や撤退につながる経営判断を下しやすくしたものと考えられます。

ブランジスタは2015年9月に上場した会社。2015年9月期で6期連続の増収増益となっていますが、売上高22億2100万円、営業利益3億1200万円と規模が小さく、電子雑誌以外での収益の柱が必要でした。上場後の目玉として打ち出したのが、神の手だったのです。

神の手は他のゲームにはない3つの強みを掲げました。

1.総合プロデューサーに秋元康氏を招へい
2.AKB48、乃木坂46、けやき坂46(現:日向坂46)など人気アイドルと企業のコラボレーション
3.ユーザーの課金率100%

企業とアイドルがタイアップして売り出すレアな商品を、アイドルのコアなファンたちの課金で稼ぐというもの。企業にとっては、アイドルなどの有名人とコラボレートした商品開発ができるメリットがあります。

ブランジスタゲームにとっては、企業とのタイアップによる広告収入と、ユーザーからの課金収入が得られます。しかも課金率は100%です。そのビジネスモデルを、秋元康氏という不動のヒットメーカーでラッピングしました。

世界戦略への布石に位置付けた「神の手」
世界戦略への布石に位置付けた「神の手」


投資家の期待を煽って株価は500円から1万5000円まで高騰

投資家の期待は高まります。日経が秋元康氏をプロデューサーに迎えたゲーム開発をしているとの報道をすると、500円台の株価は1000円台に突入。2016年5月20日には1万5850円もの高値をつけました。

ブランジスタは、芸能プロダクションなど100社とコラボし、ワンピースや新世紀エヴァンゲリオンなどの人気キャラクターを起用した5000アイテムを用意。アイドル(1人当たり年間平均消費額:9万4738円)、アニメ(1人当たり年間平均消費額:2万5096円)、フィギュア(1人当たり年間平均消費額:3万1738円)などのいわゆるオタク層をユーザーに取り込むことで、年間1200億円の売上が見込めると発表し、投資家の期待を煽りました。

蓋を開けると、ゲームは単なるスマートフォン内で行うクレーンゲームでした。やや拍子抜けな感じがします。

しかし、アイドルの育成や、パズルとRPGを組み合わせたゲームが主流の中、神の手はそのシンプルさで業界の常識を打ち破ると思われました。ゲーム内で得られる商品が魅力的であればあるほど、内容がシンプルな方がファンがつきやすいからです。

その第1弾となる商品がこちらです。

神の手の第1弾企画商品「場空缶」
神の手第1弾企画商品「場空缶」
神の手第1弾企画商品「場空缶」

驚くべきことに、”空気”でした。ブランジスタゲームは、272種類合計3万缶を景品として用意しました。スタッフ総出で3万缶分の空気を集めるという、涙ぐましい努力が目に浮かぶようです。

そして、ゲームをリリースした2016年6月に発表した第4弾企画が、投資家たちの度肝を抜きました。AKB48選抜メンバー上位16名になり切れるという「マスクヘッズ」です。

神の手第4弾企画「マスクヘッズ」
神の手第4弾企画「マスクヘッズ」

「神の手だけのオリジナル景品!」とありますが、あまりにも独創的すぎて「はい、そうですよね」と首肯するほかない商品です。

ブランジスタゲームはユーザーを獲得するため、2016年12月からテレビCMによる認知度拡大に努めました。しかし、2017年末の段階でダウンロード数は150万止まり。4000万ダウンロードを記録した大ヒットタイトル「モンスターストライク」と比較すると、見劣りする結果となりました。

ファミ通モバイルゲーム白書2018年」がまとめた、2017年1月から10月までのスマートフォンゲーム課金売上ランキング国内TOP10はこのようになっています。

順位 タイトル名 課金売上高
1位 モンスターストライク 1041億円
2位 Fate/Grand Order 896億円
3位 パズル&ドラゴンズ 473億円
4位 LINEディズニー ツムツム 303億円
5位 ドラゴンボールZ ドッカンバトル 278億円
6位 アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ 226億円
7位 グランブルーファンタジー 209億円
8位 実況パワフルプロ野球 172億円
9位 白猫プロジェクト 149億円
10位 ポケモンGO 143億円
8位 実況パワフルプロ野球 172億円
9位 白猫プロジェクト 149億円
10位 ポケモンGO 143億円

ファミ通モバイルゲーム白書2018年より筆者作成

神の手はランクインしていません。見事なまでに、大コケしてしまったのです。どこでつまづいたのか、という冒頭の質問に立ち返ると、ゲームのリリース直後からになるのでしょう。

3期連続で営業利益は出ず、2期連続の債務超過

ブランジスタゲームの財政状態を見てみましょう。

2016年9月期 2017年9月期 2018年9月期
純資産 8500万円 △1億7900万円 △10億4500万円
売上高 8700万円 2億8500万円 3億6000万円
営業利益 △3000万円 △2億6100万円 △7億3300万円

ブランジスタ発表より筆者作成

開発費や宣伝広告費による投資がかさんでいる姿が浮かびます。同社は楽天やフジテレビ、Hulu、北海道・上川町、はるやま、BEAMSなどとタイアップ商品を開発しており、売上の多くは企業からの広告ではないかと予想されます。

ブランジスタの次なる収益柱として期待された「神の手」でしたが、最終的には身内企業に引き渡す結果となりました。同社は2018年12月に国内外の旅行・観光情報を発信するDugong(ジュゴン)を買収しました。主力の「旅色」との相乗効果を狙ったもの。ゲーム事業売却後は、旅行やグルメ、ホテル情報などを軸に事業拡大を狙うと考えられます。

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