死者・行方不明者約2万2000人(災害関連死が約3500人を含む)を出した東日本大震災の発生から、今日で7年を迎えた。その後も熊本地震など死者が出た地震が相次いでいる。「地震列島・日本」で暮らす限り、震災の恐怖からは逃れられない。特に人口が集中する首都・京阪神・中部圏の3大都市圏が大規模な震災に見舞われた場合、東日本大震災を上回る被害が想定されている。そこで、この3大都市圏で防災を学べる場所を紹介する。「天災は忘れたころにやって来る」というが、忘れないうちにぜひ見学して日ごろの備えを万全にしておきたい。
立川広域防災基地は1977年に全面返還された旧米空軍立川基地跡地の一部に建設された、約115ヘクタールの広大な防災施設だ。元空軍基地だっただけに滑走路やヘリポートを備えており、首都直下地震などの大規模災害が発生した場合、空輸による人員・物資の緊急輸送の中継・集積拠点として、自衛隊・消防・警察などの運用・受入拠点および災害応急対策活動の中核拠点として機能する。
ここでの見どころは「立川防災館」の通称で知られる立川都民防災教育センター(東京都立川市)。防災ミニシアターや最大で震度7を体験できる地震体験室、無害な煙を充満させ安全に避難する方法を学ぶ煙体験室、スクリーンに映し出された火災映像を消火器で消す消火訓練室などを備え、震災が起こった場合の対応を体験を通して学べる施設だ。
開館時間は午前9時から午後5時まで。休館日は毎週木曜日と第3金曜日(国民の祝日に当たる場合は直後の平日)と年末年始の12月28日~1月4日。10人以上の団体は予約が必要だ。体験施設を利用する場合は、できるだけ動きやすい服装で。ハイヒールのようなかかとの高い靴やサンダルでは参加できないのでご注意を。
立川広域防災基地には、内閣府の「災害対策本部予備施設」も併設。都心が壊滅した場合に内閣総理大臣を本部長とする国の緊急災害対策本部及び事務局を置く場所で、記者会見場なども備えて「臨時政府機能」を担う。開設は1988年と30年も前だが、実際に使われたことは一度もなく、普段は一般公開されないため知名度は低かった。
ところが2016年に公開された映画「シン・ゴジラ」で、都心壊滅により首相官邸から移動した「巨大不明生物統合対策本部」のロケ地となり一躍有名に。ロケは建物の外側だけで内部はセットでの撮影だが、本物とそっくり同じに再現されており、映画を観れば実際の雰囲気はつかめるそう。朝日新聞のウェブサイトからは360度写真で災害対策本部予備施設の様子を見ることができる。
映画ではゴジラの被害を食い止める最後の拠点となった頼もしい施設。実際の震災でも都民の命を守る砦として機能することを期待したい。できればこのまま使われずに済むことを願いたいが…。
◇立川都民防災教育センター(立川防災館)=東京都立川市泉町1156番地の1、JR立川駅北口1番乗り場からバス「立川消防署」下車すぐ。多摩都市モノレール「高松駅」から徒歩15分。
6階建てのビルを壊れるまで震動させる―そんな装置が兵庫県三木市にある。その名はE-ディフェンス。国立研究開発法人防災科学技術研究所が運営する大型構造物の震動破壊実験施設で、2005年に完成した。面積約5,200平方メートル(実験棟)、高さ43メートルは世界最大だ。
実験設備の最大速度は水平方向が秒速200センチメートル、鉛直方向が秒速70センチメートル。秒速200センチメールは、あっという間に巨大な建物が2メートル横に移動することを意味する。建物内にいるとどれほどの衝撃があるのか。本棚やテレビ、冷蔵庫、家具などが飛び散る映像は想像するだけでも身の毛がよだつ。
このとんでもない施設で実物大の構造物を壊れるまで震動させて、その過程を科学的に分析し壊れない構造物を設計できるようにするのが実験の狙いだ。秒速2メートルのスピード揺すれば、どんな強固な建物でも壊れてしまいそうだが、この過酷な条件下でも、いずれは壊れない建物が作れるようになるのだろう。
E-ディフェンスでは強い揺れへの対応ばかりではない。東日本大震災時には遠く離れた地域の高層ビルがゆっくりと揺れる長周期震動が観測された。こうした地震にも対策が講じられるように2013年には長周期震動の再現を行えるよう改修された。
施設は兵庫県立三木総合防災公園内ある。緑の多い広々した公園で、同じ敷地内には日本最大規模のドーム型テニスコート・ビーンズドームがあり、テニスプレーヤーの錦織圭選手もここで試合を行ったことがある。同ドームでは東日本大震災時に救援物資の集積・仕分作業の拠点として活躍した実績もある。
◇E-ディフェンス=兵庫県三木市志染町三津田西亀屋1501-21、神戸電鉄押部谷駅からタクシーで約10分。神戸市営地下鉄西神中央駅からはタクシーで約25分。神戸電鉄緑が丘駅からは路線バスで約20分。やや足の便は悪いが、公園での散策を兼ねて出かけてみてもよさそうだ。
中部圏は東海道新幹線、東名・名神・新東名高速道路、中央自動車道など高速交通ネットワークの要衝であると同時に、日本を代表するモノづくり産業の集積を誇る。トヨタ自動車のお膝元である愛知県は自動車産業の製造出荷額で全国の4割を占め、自動車をはじめ製造品出荷額全体でも1977年以来全国トップで、2位の神奈川県の約2.5倍と圧倒的な差をつけている。南海トラフ巨大地震(東海、東南海、南海地震)が起きれば、経済的な損失は計り知れない。
被災の中心に位置する基幹大学として減災に貢献するー。こんな掛け声とともに、名古屋大学は2012年1月、減災連携研究センターを学内に開設した。2014年3月には「減災館」を完成。地震や防災の研究者が集結し、全館が耐震技術の開発と実験の場となっている。高層ビルで巨大地震に遭遇した時の揺れを再現できる振動台や、長周期のゆったりとした大きな振動を再現する実験装置などを備え、有事には災害の対応拠点の役割を担う。
「 減災館」はふだん市民に開放しており、1~2階(振動再現装置、減災ギャラリーなど)と地下の免振ギャラリーが見学できる。開館時間は火曜~土曜日(13~16時。第2・4火曜、祝日を除く)。
2017年7月には愛知県、名古屋市、名古屋大学を中心とする「あいち・なごや強靭化共創センター」が発足し、減災館を拠点を構えた。産学官による防災・減災の常設研究組織は愛知県県として初めてとされ、大村秀章・愛知県知事は「強さとしなやかさを備え、復元力のある愛知と名古屋をつくりたい」と期待を込める。
中部圏で待たれるのが基幹的広域防災拠点の整備だ。南海トラフ巨大地震では中部圏全体に及ぶ大規模災害に備える必要がある。こうした広域にまたがる大災害を想定した防災拠点については、三大都市圏のうち、首都圏(東京都江東区と川崎市)、京阪神圏(堺市)ですでに24時間体制で運用が始まっているのに対し、中部圏は“空白”状態となっており、国に早期整備を求めている。
◇減災館=名古屋市千種区 名古屋大学内、地下鉄名城線・名古屋大学駅から徒歩5分。
文:M&A Online編集部