数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。

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真山 仁 著 『シンドローム』(上・下) 講談社刊

累計250万部を誇る「ハゲタカ」シリーズの5年ぶりの最新作。今や国民的な“ダークヒーロー”と言ったら言い過ぎだろうか。希代の企業買収家、「鷲津政彦」が帰ってきた。今回の作品で標的に定めたのは首都電力だった。

ところが、その日本最大の電力会社・首都電力に買収を仕掛けようとした矢先に、東北を大地震が襲い、原発が電源喪失に陥る。さすがの鷲津も、買収断念か。答えは「ノー」。未曾有の国家的危機に直面して、なお買収に突き進む鷲津の思惑とは。「3.11」を舞台に、政財官を相手に迫真の攻防が繰り広げられる。

首都電力のモデルは言うまでもなく、東京電力(現東京電力ホールディングス)。現実に起きたことは、原発事故の賠償費用や火力発電シフトによる燃料調達コストの上昇などで東電は存亡の淵に追い込まれたが、政府が実質的に国有化して破綻を回避した。物語では、主人公の鷲津が用意周到に首都電の株式を買い進め、仕上げとしてTOB(株式の公開買い付け)の実施を宣言する。果たしてはその成否は…?

本書の中で、鷲津はハゲタカのルールを明快に語る。「企業買収に善も悪もない。世間がどういうかは別にして、儲かる企業だから買うんだ」と。電力事業ほど儲かるビジネスはないというのだ。

実際、電力会社は電力の安定供給と引き換えに、国から地域独占という特別待遇を与えられ、絶対に損をしない収益構造を持っている。一種の国策会社と言われるゆえんだ。だが、民間企業である限り、理屈の上では誰でもオーナーになれる。それを鷲津が実行に移す。

物語は巨大企業の買収劇にとどまらず、国のあり様が交錯する圧倒的なスケール感で進行する。3.11では事故対応をめぐる官邸の迷走や被災地の復旧・復興について様々な議論や総括がなされてきた。著者の真山さんは、M&A Online編集部の取材の中で、「鷲津政彦のアプローチから、読者の皆さんに2011年の日本が見えてきたのなら幸い」と述べている。

文:M&A Online編集部