数あるM&A専門書の中から、新刊を中心にM&A編集部がおすすめの1冊をピックアップ。選書の参考にしてみては?
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『金融機関担当者のための病医院の事業承継とM&A講座』 鈴木 克己 著・税務経理協会 刊
多くの中小企業が後継者問題に悩んでいる。子が親の後を継がないケースが広がっているのが後継者問題の根底にある。この状況は病医院も同様で「息子はドクターなのですが、私の診療所を継ぐつもりがないようです」といった相談が近年急速に増えているという。
子が親の後を継がない理由はさまざまだが、医師、看護師、事務スタッフの採用や資金繰りなどの面で病医院の経営が厳しい状況にあることも大きな要因で、厚生労働省の調査によると、2017年から2018年の1年間の診療所数は新設7339、再開235に対し、廃止が6421、休止が519となっており、多くの診療所が休廃止に追い込まれていることが分かる。
こうした状況の中、著者は金融機関の勉強会やセミナーの講師を引き受け、税などの取り扱いや医療承継支援の具体例などを発信してきた。この講義録をベースに金融機関向けの医業承継入門書としてまとめられたのが本書だ。
5章構成で、第1章は病医院が直面している後継者問題を総論的に取り上げた。2章以降で病医院承継の具体的な内容に踏み込んでおり、第2章は後継者がいる場合の個人病医院のケースを、第3章は後継者がいる場合の医療法人のケースを解説した。
4章、5章は後継者がいない場合の事例を取り上げ、M&Aと廃業・解散について言及した。M&Aに関しては「行政の立場からは医療機関のM&Aは認められておらず、存在しないことになっている」とし、このために統計がなくM&Aが増えているのか減っているのかさえつかめないのが実情という。
ただ実際は「事業譲渡」「出資持分譲渡」「払戻+入社・退社」「合併」の手法を用いたM&Aが存在しており、「増えている実感はある」と言い切る。さらに「今後、医療機関のM&Aはますます増えていく」と予想する。
著者は「行政はM&Aという言葉は嫌がるし、基本的には存在しないというスタンスは継承されるでしょうが、そのようなことはお構いなしに実務はぐいぐい進んで行くのだと思います」と締めくくっている。(2020年3月発売)
文:M&A Online編集部