数あるM&A専門書の中から、新刊を中心にM&A編集部がおすすめの1冊をピックアップ。選書の参考にしてみては?
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「M&A 買収者の見解、経営者の異論」
ケイト・ウェリング、マリオ・ガベリ著 長岡半太郎、藤原玄訳(パンローリング刊)
本書の副題は「リスクアービトラージの実務と戦略と規律」。古くからの投資手法であり、またM&Aと投資を結ぶ新視点ともいえる「リスクアービトラージ」について、その実務的手法と利益を得るための戦略、さらにM&A業界とその実践家・プレーヤー、投資家が踏まえておくべき規律・ルールについて、世界の第一線の達人投資家たちへの取材でまとめた1 冊。
著者は独立系金融誌「ウェリング・オン・ウォール・ストリート」を発行している著名な金融ジャーナリストで、バロンズ紙編集長を務めていたこともあるケイト・ウェリング氏と、ガムコ・インベスターズの会長兼CEOで米国でもトップクラスの資金運用者・投資家のマリオ・ガベリ氏。
「リスクアービトラージ」とは、「古代より前に、一人の商人が、同じ商品が異なる(しばしば地理的には離れた)市場で(たいていの場合)わずかながらも異なる価格で売られていることに気づき、一つの市場で安く買い、ほかの市場で高く売ることで、その価格差を利用しようとしたことが始まり」とする。それが今日、「上場企業でM&Aが行われる際、成立することを見込んで、株式の値動きを利用してサヤを狙う投資行動」としても使われている。
本書はそうした手法の解説を超え、20人の取材対象者の人間的・行動的側面に深く切り込み、それぞれの投資家の投資・ビジネス経験がいかにリスク分析に役立ったか、経歴・経験から編み出された戦略の価値などを余すところなく伝える。それは、まさにリスクアービトラージの内幕ということができ、大きな成功を収めた投資家はアービトラージの魔術師といえるだろう。
M&Aにおけるリスクアービトラージ投資家は、長期的な一生涯を賭けた投資の成功を重視する。その投資活動・洞察力から生み出され、編まれた教訓は、M&A投資家はもちろんM&Aの実践者・プレーヤーにも重要な視点を提供する。
なお、訳者は中堅運用会社に勤務する長岡半太郎氏と、独立系投資会社に勤務し投資など各分野の翻訳を手掛ける藤原玄氏。(2020年1月発売)
文:M&A Online編集部