数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。
・ ・ ・ ・ ・
起業するより会社は買いなさい サラリーマン・中小企業のためのミニM&Aのススメ
高橋 聡 著・講談社+α新書
企業買収というとマスメディアを騒がせる大企業によるM&Aを想像するが、最近では中小企業のM&A仲介サイトが開設されるなどスモールバイアウト(小規模買収)が活発になったきた。中には数百万円で売りに出ている企業もあり、サラリーマンでも容易に手を出せる状況になっている。
著者はコンサルタント大手のアクセンチュア勤務を経て、家業を引き継いだ経歴の持ち主。その事業承継の苦労から、ユーザー投稿型M&Aマッチングサービスを立ち上げを思いつく。本書はそのサービスを運営した経験をもとに著した、一般向けミニM&Aの指南書である。
サラリーマンの経営者デビューといえば、起業がブーム。しかし、著者は収益の安定した事業をゼロから立ち上げる起業には、相当な苦労と知識が必要になると警鐘を鳴らす。そこでM&Aの出番だ。業績の安定した既存の企業を買収すれば、顧客や業務プロセスなどを引き継げるため、起業よりも安定したスタートを切ることができるという。
本書ではM&A交渉の心構えや実践、注意点を分かりやすく解説。実際の中小企業買収事例なども紹介し、「自分も会社を買ってみようかな」という気にさせてくれる。自らがM&A仲介サイトを立ち上げた背景についてもふれ、中小企業の買収が「金儲け」だけの手段ではなく、日本が直面する高齢化や国内産業の衰退といった社会問題の解決にも役立つ広い視野からの提言書でもある。
中小企業とはいえ、買収後の経営は決して楽ではない。本書を読んだだけで誰でもM&Aができるほど現実はお気楽ではないが、日本になぜM&Aが必要なのかを知るには最適の一冊といえる。(2019年8月発売)
文:M&A Online編集部