数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。
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事業承継M&A「磨き上げ」のポイント 経済法令研究会刊
金井 厚 (著), 岡本 行生 (著), 岩松 琢也 (著)
バブル華やかなりし頃、日本にも「時価会計」の波が押し寄せる。当時の大手企業経営者たちは、時価会計に概ね否定的だった。彼らは「時価会計なんて、平気で会社を売り飛ばす欧米企業向けのもの。めったに企業売却が起こらない日本にはふさわしくない」と主張した。
まもなくバブル経済は崩壊。高騰していた地価が急落すると、簿価会計で資産の目減りを取り繕っていた企業は相次いで経営破綻する。結局、時価会計で「企業の現時点の価値」を知ることは、「企業の健全性」を知ることにほかならなかったのだ。今では時価会計を「日本にはふさわしくない」と批判する経営者は存在しない。
本書は事業承継M&Aを検討している中小企業経営者や取引金融機関の担当者向けの指南書だ。一言でいえば中小企業のオーナーが、より好条件で会社を売却するためのノウハウ本である。そのための手法が「磨き上げ」なのだ。とはいえ奇手妙手があるわけではない。
本書で取り上げられているチェックポイントは「株主名簿の作成・管理」「株主総会や取締役会の議事録作成」「会計帳簿の適切な作成・保管」「事業計画の作成」「営業状況・顧客・仕入れ先の管理」「税の申告書控えの保管」「契約書の整理・保管」「給与台帳・賃金台帳の整理」「社内の整理整頓」など。
「なんだ当たり前のことばかりじゃないか」と思われるかもしれない。確かにその通り。当たり前のことをきちんとしている会社ならば、買い手がつくのである。だが、胸に手を当てて考えてほしい。現実には当たり前のことを完全にできている会社の方が少ないのだ。「会社を売る」ことは「会社の健全性を保つ」ことに通じる。健全な会社でなければ買い手はつかない。実に単純な話だ。
「ウチは会社を売る気はないよ」「サラリーマンだからM&Aは関係ない」という人も多いだろう。むしろ、そちらの方が圧倒的な多数派だ。本書は自らが経営する、あるいは働く会社の健全性を維持あるいは改善し、業績を引き上げていく絶好のハンドブックになる。「会社が高く売れる」ということは、「優秀な会社である」ことにほかならない。すべての働く人に、とりわけ経営者と大手企業を含む管理職にとっては「読んで損のない」一冊だ。(2019年6月発売)
文:M&A Online編集部