『最後の頭取』|編集部おすすめの1冊

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数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識や教養として役立つ本も紹介する。

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『最後の頭取 北海道拓殖銀行破綻20年後の真実』  河谷 禎昌 ダイヤモンド社刊

北海道拓殖銀行は1997年11月に都市銀行として初めて経営破綻した。巨額の不良債権を抱えて行き詰まった。その13代目にして「最後の頭取」(1994年6月に就任)を務めたのが著者。特別背任罪で実刑判決を受け、1年7カ月を刑務所で過ごした。大手銀行の経営トップで収監された例は他にない。

最後の頭取 北海道拓殖銀行破綻20年後の真実1980年代後半、日本経済は空前のバブルに沸き、金融機関もバブルに踊った。バブルがはじけて待ち構えていたのが不良債権の山。拓銀はもともと都銀の末席(11行中の最下位行)。大型リゾートへの過剰融資や系列ノンバンクの乱脈融資などがたたり、体力をはるかに超える不良債権を抱え込んだ。

都銀の“不倒神話”が風前の灯となる中で、結果的に敗戦処理として登板したのが著者。北海道警に特別背任容疑で逮捕されたが、第一審では無罪を勝ち取った。ところが第二審は逆転有罪で、実刑判決が下った(最高裁は上告破棄)。

頭取から被告人へ、破綻の後始末、70歳を過ぎての刑務所暮らし…。天国から地獄へのジェットコースターを思わせる壮絶な経験の持ち主だが、自分の不運をことさら嘆いたりするわけでもない。

読後感を問われれば、清々とした気分になる。あれだけの経済事件の矢面に立たされながらも、恨みがましいところがまったくないのだ。筆者も頭取時代の河谷氏に取材で一度だけお目にかかったことがあるが、氏の生来の気性に由来することは違いない。

もちろん、拓銀が追い詰められていった内実や経過は克明に記述している。

望みを託した地銀の北海道銀行との合併。単独での生き残りを断念し、北海道銀行との合併に大筋合意しながら、北海道銀行の翻意で合併話が流れ、拓銀は資金ショートが避けられない事態を迎えた。受け皿銀行に因縁の北海道銀行ではなく、大蔵省(現財務省)の意向に逆らって北洋銀行を選んだのは移籍する拓銀行員の将来を見据えたうえでの判断だった。

それにしてもなぜ、著者だけが服役することになったのか。バブル崩壊後、トップが逮捕された金融機関は30を超えるが、大部分は執行猶予がついたり、無罪となったりした。その点について、著者は「国策捜査」「国策逮捕」に他ならないと断言する。

1990年代後半、政府は金融システム安定化のために公的資金の投入を決断した。その際、経営責任の追及の大合唱が起きた。自身、「無実」を主張しながらも、スケープゴートの運命を背負ったのだと自らを納得させる。

うらやましくなったのが2017年に亡くなった5歳年上の妻節子さんの存在。職場結婚の2人だが、「最高傑作の夫婦」に思えてならない。夫婦のやり取りを垣間見るだけでも一読の価値がある。(2019年2月発売、1944円)

文:M&A Online編集部