「株主総会 有事対応の理論と実務」|編集部おすすめの1冊

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数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Onlineがおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。

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「株主総会 有事対応の理論と実務」 生方 紀裕著、中央経済社刊

株式を公開している上場企業はいつ何時、アクティビスト(物言う株主)や対立株主の標的になるかもしれない。近年、経営改善や株主還元を求める株主提案が増加し、事業会社による敵対的買収も珍しくない。そうした場合に主戦場となるのが株主総会だ。本書は「有事」における株主総会の実務的対応について多角的に解説した。

株主総会有事対応の理論と実務

議決権ベースで1%以上(もしくは300個以上の議決権)の株式を所有する株主は株主提案権を行使できる。3%以上であれば、株主総会招集を請求できる権利を持つ。

株主提案に関しては役員選任、役員解任、剰余金配当、自己株式取得、自己株式の消却、新株発行、組織再編の承認、新株予約権の無償割当を利用した買収防衛策の廃止、定款変更の9つケースを取り上げ、基本的事柄や法的留意点を整理した。

株主総会招集請求権は権利行使のハードルが高いため、その事例は株主提案権に比べはるかに少ない。とはいえ、最近、支配権争奪戦、敵対的買収などの増加に伴い、実例が急増しつつあるという。請求された株主総会招集を会社側が拒否した場合の裁判所への株主総会招集許可申立制度と合わせ、フォローしている。

対象会社の経営陣の賛同を得ずに行われるのが敵対的買収だ。当該会社にとって最大の「有事」といえる。敵対的買収をタブー視する風潮が薄れ、実際、成功事例も増えつつある。

伊藤忠商事によるデサントの子会社化(2019年)、コロワイドによる大戸屋ホールディングスの子会社化(2020年)がいずれも敵対的案件として経済ニュースを騒がせたことは記憶に新しい。

敵対的買収の対抗手段として現在主流となっているのが新株予約権無償割当を利用した買収防衛策。敵対的買収者の持ち分を希釈化することを目的とする。

新株予約権無償割当による買収防衛策の導入・発動をめぐり、2021年から22年にかけて重要判決(日邦産業事件、日本アジアグループ事件、富士興産事件、東京機械製作所事件、三ッ星事件)が相次いだのを踏まえ、その留意点を株主総会対応を中心に説明している。

有事株主総会ならではの論点や問題点がテーマ別に整理されている。上場企業の総会担当者にとっては一読しておきたい実務解説書といえる。(2023年3月発売)

文:M&A Online