これ1冊でもめない損しない相続・事業承継 |編集部おすすめの1冊

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数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Onlineがおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。

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なぜ、おばちゃん社長は連続的に勃発する地獄のような事件から生き残れたのか? これ1冊でもめない損しない相続・事業承継 平美都江著、ダイヤモンド社刊

1970年代の人気ドラマ「寺内貫太郎一家」で故・小林亜星さんが演じた主人公の寺内貫太郎は零細石材店を経営する叩き上げの親方。ドラマの設定では53歳で、超肥満体という貫太郎の健康問題を案じた家族が生命保険に加入しようとすると、「縁起でもない、オレが死ぬとでも言うのか!」とちゃぶ台をひっくり返して激怒するシーンがあった。

当時としては「生真面目で頑固一徹なオヤジ」という見方だったが、現在では「オレが死んだ後のことなんてどうでもいい。残された家族や従業員がどうなったって知ったことか!」という無責任極まりない人物として非難されるだろう。しかし、今もそうした「昭和オヤジ」は存在する。それが零細企業ではなく、大きな事業と莫大な資産を持つワンマン経営者ならどうなるのか?

著者はそんな「暴君」とも言えるワンマン経営者の娘として、父の横暴と戦い相続と事業承継を果たした「サバイバー」である。父との衝突で相続は一筋縄では行かない。しかも事業を引き継いだ弟の急死、著者の後継者として迎え入れた甥(弟の息子)の突然の退職など事業承継も大揺れに揺れた。

ノウハウ本のようなタイトルだが、内容はまさに女性社長の実録「相続・事業承継戦記」である。ドキュメンタリーとしてもおすすめできる1冊だ。

これ1冊でもめない損しない相続・事業承継

一代で鍛造メーカーを立ち上げ、100億円を超える資産を残した著者の父は、事業承継はおろか生命保険の加入すら拒むワンマン経営者だった。

それに加えて偏執的に猜疑心が強く、妻に先立たれると遺産を2人の子供に分けようとせず「全部自分のものだ」と主張して家族を困惑させる。

さらに後継者だった弟が事故死すると、妻と実子がいる弟の遺産まで「すべて自分のものだ」と主張し、大波乱を起こす始末。

父はレピー小体型認知症を発症し、言動はますます常軌を逸してくるが、カリスマ経営者だっただけに、ほとんどの従業員は盲従する。

ついには自社の「廃業」を宣言し、大手取引先を慌てさせることに。たまりかねた著者が父との裁判に踏み切り、和解で父が経営から退いて問題は一旦決着した。

ほっとしたのもつかの間、後継者のはずの甥が退職して事業承継は白紙に戻る。最終的に著者は大手企業2社へのM&Aによる第三者承継で自社の存続にめどをつけた。その過程で発生した手続や相続税問題について説明している。

ノウハウ書ではないので、法律や税制について詳細に説明しているわけではないが、著者の体験から出た「自分の言葉」だけに、すんなり頭に入ってくる。本書の主張は経営者(本書の場合は著者の父)が相続や事業承継に無頓着だと、残された家族や従業員、取引先企業に大きな迷惑をかけるということだ。

「相続問題」といえば残された遺族が遺産分配を巡って骨肉の争いを繰り広げるイメージがあるが、本書で取り上げたケースではそうした事態は起こらなかった。それでも相続や事業承継に「無策」であったことが、あわや廃業という大変な混乱を招くことになったのだ。

著者の父ほど風変わりな性格でないにせよ、たとえ聖人のような人格者であっても経営者が無自覚なら生じる事態は同じだ。「今日から行動してください」との著者のメッセージは、決してオーバーな話ではない。(3月14日発売)

文:M&A Online