「大御所の後継者問題」|編集部おすすめの1冊

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数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。

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「大御所の後継者問題」 加来 耕三著、エムディエヌコーポレーション刊

経営者として輝かしい成功を収めながら、引き際を誤ったことで、晩節を汚すケースは決して少なくない。生涯現役を気取れば、老害のそしりを免れない。一方、創業者、あるいは中興の祖と呼ばれる人物からバトンタッチされた後継者はことあるごとに先代と比較されるのが常だ。

大御所の後継者問題

現在の日本を代表するカリスマ経営者といえば、ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長、日本電産の永守重信会長兼CEO(最高経営責任者)、カジュアル衣料品「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長が真っ先に思い浮かぶ。創業者である3氏に共通するのはほかでもない後継者問題。永守氏は自身の後継者選びについて、「人生最大の失敗」と語ったほどだ。

本書が題材に求めたのは戦国時代における家督相続、つまり後継者問題。歴史をひも解けば、2代にわたって、見事に「承継」を成功させた組織(家)もあれば、偉大な父親の功績に委縮してすべてを失った後継者もいた。

徳川幕府を開いた家康は秀忠に自ら将軍職を譲り、「大御所」と称した。徳川幕府は260年にわたって続くことになるが、その礎となったのが2代将軍秀忠へのバトンタッチだったという。家康の巧みな後継者育成術にこたえ、秀忠は跡継ぎとしての実績を着実に積んだ。著者は秀忠を理想的な“名後継者”と評する。

本書は4章構成。「先代の業績を堅実に受け継いだ承継者」として、徳川家康→秀忠、前田利家→利長→利常など6例を紹介。「先代を超えて飛翔した後継者」では織田信秀→信長、柳生宗厳→宗矩など6例。

一方、「先代を超えられなかった後継者」として上杉謙信→景勝、豊臣秀吉→秀頼など、「一族の衰退を招いた後継者」として武田信玄→勝頼、本多正信→正純など、各5例を取り上げた。

戦国時代における家督の相続は、現在の企業経営に少なからず通じる。著者は歴史家・作家。(2023年2月発売)

文:M&A Online編集部