「会社を救うM&A、つぶすM&A」|編集部おすすめの1冊

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数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。

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会社を救うM&A、つぶすM&A 成功する中小企業の事業承継 中澤宏介著、合同出版刊

先ずはタイトルにごまかされてはならない。一般的なM&A論でもなければ、M&Aの成功例と失敗例を紹介する本でもないからだ。内容はズバリ「M&A仲介業者対応マニュアル」。中小企業のM&Aは、M&A仲介業者が介在するケースがほとんど。その上で、自分の会社を売却しようとするオーナー経営者がM&A仲介業者にまんまと騙(だま)されないようにするために、彼らの「手の内」を紹介する一冊だ。

会社を救うM&A、つぶすM&A

著者は大手のコンサルや証券会社で上場企業の資本提携や事業買収・売却案件に従事した後に、中小企業のM&A向けにセカンドオピニオンなどの支援サービスを提供するアドバイザリー会社を設立したM&Aのプロ。それだけにM&A仲介業者の仕組みをよく理解している。

例えばM&A仲介事業者が手紙や電話で「弊社が支援している大手企業が、御社と資本提携する意向があるのだが…」とアプローチして来た場合、これを鵜呑(うの)みしてはいけない。

多くの場合、M&A仲介事業者は大手信用調査会社のリストから「売れそうな企業」に片っ端から連絡をしているというのだ。買い手を見つけるのは、売り手企業がその気になってからだ。

さらに交渉当初は売り手企業のオーナー経営者が決断するよう譲渡金額を高めに設定するが、交渉終盤になると買い手に「うん」と言わせるためにあれこれ理由をつけて金額などの条件を引き下げにかかるという。

M&A仲介事業者に「売り手をだましてやろう」という悪意があるわけではない。交渉初期においては「売る企業」を確保する必要があり、交渉末期においては何としても「決着」させなければならないため。そもそも「売る企業」がなければビジネスは始まらないし、「決着」しなければ手数料をほとんど取れない。M&A仲介事業者のビジネスモデル上、仕方がないことなのだ。

とはいえ、中小企業がM&A仲介事業者を利用せずに会社を売却するのは現実的ではないと著者は主張する。要はM&A仲介事業者と「うまく付き合え」というのが本書の趣旨なのだ。期待していたよりも譲渡額が少なかった場合は、売り手企業側の責任もあるという。自社を売り込む「企業概要書」の内容が実態とかけ離れていたり誤字脱字があったりすると、それを根拠に買い手企業から交渉終盤で減額を求められる可能性がある。

優秀なM&A仲介事業者であれば的確なアドバイスで修正してくれるが、そうでない低レベルな仲介事業者も少なくない。売り手企業側が留意しておけば、M&A交渉で譲渡額を引き上げられるノウハウを詰め込んだ1冊だ。M&Aによる企業譲渡を考えているオーナー経営者はもちろん、中小企業M&Aの現場を知りたい人にもお勧めできる。(2022年12月発売)

文:M&A Online編集部