数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。
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「ストーリで読むスモールM&Aの実務」鉄本 一生、池永 章 共著、大蔵財務協会刊
地方都市で従業員20人の繊維会社を経営する社長のもとに、従業員5人の外注先企業から「ウチの社長をやってくれませんか」との電話があった。社長は「この話をお受けしなかったら御社はどうされますか?」と返したところ、相手からは「おそらく廃業するしかないと思います」の返事が返ってきた。こうして中小企業の小規模なM&Aが始まった。
この事例のように、昔からよく知っている相手と行う小さな企業同士のM&Aの実例を7件紹介している。「もう会社を畳んだ方がいいと思うんです。会社を畳んだらどのくらい手元に残りますか?」「実は思い切ってM&Aをしようと思うんです。サポートをお願いしてもよいですか?」といった具合で、規模が小さすぎてM&Aの仲介会社が手を出さないような案件ばかりだという。うまくM&Aが成立した事例はもちろん、途中で話が進まなくなったケースなどもある。
筆者は会計事務所に所属し、会計事務所に寄せられる相手がほぼ決まっているM&A案件を手がけており、事業承継やM&Aに関する相談を毎年30件ほど受け、このうち案件が成立するのは数件という。
本書では、M&Aをどのように進めればよいのか分からない経営者のために、事例とともに「M&Aの売却代金はどう考えたらよいか?」「M&Aの契約はどこから進めたらよいか?」「契約はどこまできっちりするべきか?」などについて解説。さらにM&A成立後の経営の統合作業(PMI)などについても、具体的な事例を示しアドバイスしている。
M&Aに関わる税については、税理士の共著者が「税のポイント」として執筆したほか、「頼れる仲介者の見分け方」「買い手の何気ない一言で破談になる」などの注意点などをコラムとしてまとめてある。
現在、日本では70%ほどの中小企業が後継者難に悩んでおり、このままの状態が続けば多くの企業が廃業に追い込まれるおそれがある。本書は廃業を考えている経営者はもちろん、同業の会計事務所でM&Aに関わっている専門家にも参考になりそうだ。(2022年10月発売)
文:M&A Online編集部